「大学進学の壁」あまりにも高い里子たちの苦悩 日本には「学ぶ権利」を剥奪された子どもがいる
児童養護施設出身で、里親の会などを開催する竹中勝美さん(64歳)にも話を聞いた。竹内さんによれば、社会的養護を要する子どもたちの進学が難しいのは「経済的な理由」だけでなく、「大学進学向けの奨学金制度に関わる情報の行きわたらなさ」も原因にあるという。
「特に児童養護施設では情報にアクセスすることに制限をかけている施設もあり、そうした情報が子どもにまでなかなか届きません。そのために子どもたちは夢を持てず、また見本となる身近なモデルも見いだすことができない。本当に小さい頃から自分たちのような境遇でも大学に行ける制度があるといった情報を届け、18歳になった後、どうするかを教えていけば、子どもたちは夢が持て、それに向かって勉強しようとする意欲が湧いてくるはずです」
絵美さんの場合、里子になってからは安心して暮らせる生活環境にあり、さらに教育関係の仕事の経験がある里親がそばにいた。子どもの趣味に合わせ、学ぶことの楽しさを伝えられる隆宏さんが、絵美さんの勉強を見守っていた。また、自費で学習塾や習い事にも通わせたことがあった。こうした支援があったからこそ、彼女は未来に夢を描き、勉強に励み、希望した今の進学校に進むことができた。
先の元児相職員によれば、これはまれなケースだという。多くの里子は里親との関係がうまくいかず、児童養護施設や親元に戻る傾向にある。
また、絵美さんを育てた鈴木さん夫妻も彼女を育ててきた中で、今の社会的養護を必要とする子どもの教育について思うところがあったという。
「児相では勉強を教えるシステムがちゃんとできておらず、『学習権』が保障されていません。子どもたちも結果的に勉強の楽しさなど味わえないまま、『勉強なんていいや!』となってしまう。一方、公立の学校(義務教育の小中学校)も、誰が来てもいいという方針のわりには、それも到底十分できているとは言えません」(隆宏さん)
「自治体によっては、学習支援が手厚いところもあり、政府が示す基準にプラスして、里親への補助費的な位置づけで、実質的には子どものために予算を取っているところもある。しかし、たとえ学習塾へ行けたとしても、学校の勉強になんとか追いつくので精いっぱい」(洋子さん)
大学進学のハードルはあまりにも高い
社会的養護の枠組みが基本的には「18歳まで」ということについてはどう考えているのだろうか? 隆宏さんはこの点について、「絵美さんが、18歳までに1人で自立して生活できるように援助するというのがつねに頭にあります。今の養育システムの中では、絵美さんは、失敗が許されません。何かトラブルを起こして警察沙汰にでもなれば進学も難しいですし、里子として家にもいられなくなります」という。
絵美さんも決して今まですべてが順調だったわけでない。たとえば通っている進学校の「詰め込み式」の教育になかなかなじめず、隆宏さんたちにそれを言い出せないまま、腐っていた時期もある。隆宏さんたちはまわりの人たちと協力しながら、絵美さんが道から外れそうになる前に先手先手をうち、軌道修正をし続けてきた。それがあってこその今なのだ。
最後に、絵美さんに国や社会に対して望むことを聞いた。
「もともと私たちは学習が遅れているので、そうしたことへのサポートをしてほしい。多くの私と似たような境遇の子どもたちは勉強ができないまま社会に出され、厳しい立場にいると思うから」
失敗が許されない状況が進学できたとしても続く。奨学金の中には、給付を受けるのに毎月大学と面談しなければならないような厳しい条件のものもある。道を外れてはいけないという不安が常につきまとう。
この国ではすべての子どもが子どもらしく生きられるわけではない。夢や希望が持てるような学習権の保障と、失敗してもやり直せる仕組みが必要とされているのではないか。
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