江ノ電、乗って驚く「観音電車」で狙う観光復活 外観は普通の電車、車内は極楽浄土に「枯山水」
江ノ電と長谷寺による観音電車の企画がスタートしたのは2020年度。佐藤さんによると、もともとは2021年春ごろから運行開始の予定だったが、コロナ禍の影響で後ろ倒しになった。緊急事態宣言解除のタイミングを踏まえて10月から運行することになったという。
コロナ禍で鎌倉エリアの観光は大きなダメージを受けている。鎌倉市が公表している統計によると、同市の2020年度観光客数は延べ738万人で、2019年度の1902万人から約6割減った。
長谷寺の参拝者数は「以前は多い日で1日1万人を超えていたが、今はその2割程度」(同寺・山﨑さん)。一時は観光客による乗車待ちの列が鎌倉駅の外まで伸び、沿線住民が優先的に改札内に入れるよう証明書を発行する社会実験まで行われた江ノ電の利用者数も、「月によって違うものの、以前の混雑時に比べると半分程度」(佐藤さん)という。市の統計によると、2019年度に約944万3500人だった江ノ電鎌倉駅の乗降者数は、2020年度は約488万7500人にほぼ半減した。
混雑対策から誘客へ課題が一変したともいえる状況だが、今後目指すのは単純な集客ではなく「周遊・分散型観光」の浸透だ。
「分散観光」の一助に
江ノ電と親会社の小田急電鉄は、10月から江の島・鎌倉エリアへの新たな誘客施策をスタートした。両社の電車内や駅に季節ごとのポスターなどを掲出するほか、12月には観光ポータルサイトをリニューアルし、観光施設や飲食店などの混雑情報をリアルタイムで発信することで「密」の回避や分散型の観光を推進する。
回遊性の向上などによる観光客の分散化は、コロナ禍以前から鎌倉市も課題として掲げていた。佐藤さんによると、観光客は鎌倉駅周辺に滞在してそのまま東京・横浜方面へ帰るケースが多いとの統計があるという。「広く周遊観光をしてもらうことによって、鎌倉のいい部分をもっと見ていただきたい」(佐藤さん)。乗る楽しみのある観音電車は、1カ所の滞在に留まらない観光を促す一環でもある。
今年1月に始まった長谷寺の本尊造立1300年記念行事は年内で終了する予定だったが、期間を2022年12月末まで延長した。「観音電車や記念行事が観光復活の一助になればと思っている」と同寺の山﨑さん。江ノ電の中沢さんも、「この電車が話題になることで、鎌倉という地域を盛り上げたい」と語る。
極楽浄土をイメージした電車に込められた鎌倉の観光復活、そして「疾病退散」の祈りは通じるか。
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