「抵抗の新聞人 桐生悠々」に見た今に通じる教訓 ファッショの暴風の中でも書くべきことを書いた
名著復刊
(『サンデー毎日』2021年8月29日号)
悪化の一途を辿るコロナ禍の現状とか、なのに五輪を強行する愚かな政治とか、憂鬱なことばかりの毎日だが、それでも日々生活を紡いでいれば、個人的にうれしいこともたまにはある。かつて黄版の岩波新書で刊行された井出孫六著『抵抗の新聞人 桐生悠々』が復刊されることになり、解説原稿を書かせてもらったのはそのひとつだった。
私の郷里でもある信州の地元紙・信濃毎日新聞で戦前戦中に主筆を務め、「関東防空大演習を嗤う」といった論説で軍部に敢然と抗った桐生悠々については、以前も本コラムで触れたからあらためて詳述はしない。私はこの本をたしか高校時代に読み、記者という仕事に初めて漠然とした憧れを抱いた。少々大袈裟にいえば、この本はメディアとかジャーナリズムと呼ばれる世界に私を誘うきっかけにもなった。
その本が復刊し、解説原稿を委ねられたのだから、これほどうれしい仕事はない。しかも解説の執筆にあたり、著者の井出孫六さんが遺した取材メモや資料類に目を通す機会を得たのは望外の僥倖だった。
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