"小田急色"をあえて消した「下北沢再開発」の勝算 地上の線路跡地にさまざまな施設を多数建設

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しかし、今回の下北沢の再開発ではそうした企業カラーが皆無だ。強いて言えば、温泉旅館の由縁は新宿でも開業している既存のブランドだが、由縁が小田急グループに属しているとはほとんどの人は気づかないだろう。

マスタードホテルの前に立つ小田急エリア事業創造部の向井隆昭氏(記者撮影)

小田急カラーを感じさせないという点については、小田急の担当者も同意する。「小田急の考えの押し付けではなく、地域の人たちが豊かになってもらうことを目指した」と、同社で下北沢の沿線開発に従事するエリア事業創造部の向井隆昭氏が話す。下北沢は大きな商業施設の影響を受けることなく独自の発展を遂げ、音楽、演劇、ファッションといった若者の文化の中心軸として君臨する。小田急も自社が前面に出て自ら街を変えていくよりも地域の意向を支援する方向で開発するほうが、長い目で見れば得策と判断したわけだ。

「先行事例なし」黒子に徹する

下北沢周辺の再開発はまだ終わったわけではない。世田谷区が事業主体となる下北沢の駅前広場や、世田谷代田―下北沢間の緑地整備はまだ完成していないし、京王電鉄が行う下北沢高架下の商業施設も建設中だ。

京王井の頭線の高架下では商業施設の建設が進む(記者撮影)

住民の声は1つではない。区のホームページには現状の開発を評価する声だけでなく、「商業施設は近隣住民に配慮した営業時間を設定してほしい」「以前と同様に静かに暮らしたい」といった声も寄せられる。全員が満足する解決策を見出すのは用意ではない。

2019年9月24日、再開発について開いた会見時の様子。左から小田急の星野社長、世田谷区の保坂区長、京王の紅村社長(記者撮影)

「先行事例はありません」――。2019年9月24日、世田谷区の保坂展人区長、小田急の星野晃司社長、京王の紅村康社長の3者が出席して行った会見で、下北沢周辺の再開発について星野社長がこう話した。

もちろん、東急の二子玉川ライズを見るまでもなく、鉄道会社が開発をリードするほうがうまくいく場合は多い。実際、小田急自身も現在開発に力を注ぐ海老名では今年4月に「ロマンスカーミュージアム」を今年4月に開業させるなど、海老名における小田急ブランドの定着化を図っているように見える。

しかし、小田急は下北沢に関しては、自ら黒子に徹して街の発展を支援するほうが得策と判断した。支援型開発という前例のない試みだが、成功すれば新たな沿線開発の手法として、業界に一石を投じることは間違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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