マスコミ衰退を憂う人に伝えたいニュースの未来 溢れんばかりの課題は同時に可能性を指し示す

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僕には「自分だけの教科書」と呼んでいる作品群があります。1960年代~80年代にかけてニュー・ジャーナリズムと呼ばれたアメリカや日本のノンフィクションです。ニュー・ジャーナリズムの作品群を繰り返し読んで、僕は自分の好みが時間を超えていく作品にあることに気がつきました。人間を丁寧に描いた作品のほうが、時評的な作品よりも時代を超えて響くものがあるのです。

組織が変わっても、個人で仕事をしていても、幸いなことにニュースの世界で生きていられるのは、間違いなく「自分だけの教科書」と基礎があったからです。

彼らから勝手に教わったことを通じて、僕はニュースの世界をサバイブする力と知恵を身につけていったように思います。具体的には、「勢い」のようなあいまいなものに頼るより、自分がやりたいことに向かって少しずつ力をつけていくほうが、結果的に長くこの世界で生きていけるということを学んだのです。

ジャーナリズムはニュースの一分野にすぎない

今の日本社会では「ジャーナリズム」「ジャーナリスト」という言葉に、独特の美学を持ってしまっている人もいます。個々人に「かくあるべし」といった先入観があります。そうした人々の強い思いは、ニュースという大きなジャンルの一分野であるとは思いますが、すべてではありません。

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ニュースに関わるのは、ジャーナリストを自認する人々だけではありません。新聞やテレビの記者、政治や経済を語る専門家以外にも、インターネットの隆盛とともに、名乗る人が増えてきたライターや編集者もまたニュースを書き、配信し、ニュースの世界の住人になっています。さらに言えば、ホームページやアプリを開発するエンジニアもいます。

僕が「ニュース」と呼んでいるものは、簡単に言えば実際に社会で起きた出来事をもとに、創作を交えずに伝える情報全般を指します。そのなかには、ニュース番組や新聞記事、雑誌記事だけでなく、ノンフィクションやドキュメンタリーと呼ばれるものも含まれます。狭い意味に押し込めることなく、ニュースの定義を拡張して考えることで可能性はさらに広がります。

マスメディアは衰退していったとしても、ニュースが求められなくなる時代はやってこないと僕は考えています。それはニュースの書き手は規模の大小はともかく、常に求められるということを意味しています。いつの時代も、どんなテクノロジーがあっても誰かが、ニュースの発信を担い、きちんと利益を上げる必要があるのです。

石戸 諭 ノンフィクションライター

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いしど さとる / Satoru Ishido

1984年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。立命館大学法学部卒業後、2006年に毎日新聞社に入社し、2016年にBuzzFeed Japanに移籍2018年に独立してフリーランスのライターに。2020年に「ニューズウィーク日本版」の特集「百田尚樹現象」で「第26回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」、2021年に「文藝春秋」掲載のレポートで「PEPジャーナリズム大賞」を受賞週刊誌から文芸誌、インターネットまで多彩なメディアへの寄稿に加え、フジテレビ、朝日放送などへのテレビ出演と幅広く活躍中。著書に、『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、
『ルポ 百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)。

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