マスコミ衰退を憂う人に伝えたいニュースの未来 溢れんばかりの課題は同時に可能性を指し示す

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僕はニュースとはクリエイティブなもので、創るものだと考えています。ここではクリエイティブという言葉を、新しい価値を創造するという意味を込めて使っています。ニュースとは単なる情報ではありません。そう思っている人はメディアの業界にも多いのですが、それはまったく違います。自らが発見し、価値を見つけ、創り上げていくことに最大の存在理由があります。

ニュースの世界にいると、よく相談を受けることがあります。「新聞社に未来が感じられないからネットメディアに転職したい」「テレビはもう終わりですよね」「出版なんて衰退産業だから」……。

経営者でもないのに業界や会社の将来を悲観

僕はこうした声を聞くたびに、彼らは何がやりたいのだろうかと疑問に思ってきました。こうした相談をする人たちの多くは、会社と自分を同一視し、経営者でもないのに業界や会社の将来を悲観してみせます。そのくせ、自分の将来はそんなに考えておらず、どこか自分の力を発揮できる組織に属せばいいのだと考えているようなのです。

残念ながら、そんな都合のいい組織は存在しません。僕はニュースの世界にいるプロ、あるいはプロを目指す人ならば、勢いがある業界や会社にいたいというのはもっとも言ってはいけないことだと思っています。なぜか。勢いはやがてなくなり、会社をめぐる環境も常に変わるからです。2007年に最初のiPhoneが発売されたとき、スマートフォンをこれだけの人が持つ時代が10年足らずでやってくることを予想できた人はいないと思います。

SNSやユーチューブの社会的影響も同様です。今後も通信環境やスマートフォンといったテクノロジーはさらに進化を遂げていくでしょう。

しかし、変わらないものもあります。

僕は老舗の新聞社で10年、インターネットメディアで2年ほど仕事をして独立するという道を選びました。そこで大事だったのは、いつの時代も変わらないニュースの世界の基本でした。基本の価値を常に問い、迷い、考え続けることで、メディア環境や職場が変わっても変わらない自分なりの哲学や、こういうことをやりたいという目標が定まっていき、言葉にできるようになりました。

僕にとってのそれは、人間や人間に付随する物語を描きたいということになります。人間は人間に興味があるというのが、僕のニュースの世界における基本的な考え方だからです。

次ページ人間を丁寧に描いた作品のほうが時評的な作品よりも響く
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