外国人記者たちが語るオリンピック取材「舞台裏」 日本はローテクで英語ができない国と思ったが

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感染状況を鑑みると仕方ない側面はあるものの、一部の外国人記者は無観客であることに残念さを感じている。ヨーロッパでは最近、スタジアムの半分、時にはすべてが観客で埋まった状態でサッカーのユーロ大会が行われた。アメリカでもスタジアムは満員だ。日本でも、野球の試合は有観客で行われている。オリンピックだけが、空っぽの巨大なスタジアムで開催されているのだ。

1996年以来すべてのオリンピックを取材してきた通信社、CEBOの創設者であるエチエンヌ・ボナミー氏は、「パリの郊外でイベントを取材しているような気分だ。少し悲しい」と言う。

さらに深刻なのは、おそらく歴史上初めて、オリンピックが開催地で歓迎されていないことだろう。「北京オリンピックでは、記者を乗せてホテルから競技場へ向かうバスは警察車両にエスコートされ、ボランティアが交通整理をしてバスが先に通れるようにしてくれていた。だがここでは、オリンピックのシャトルバスが渋滞に巻き込まれても、耐えるしかない」と、 ボナミー氏は説明する。

「パンデミックのリスク要因にされている」

日本での報道によって、自分たちがパンデミックのリスク要因にされている、と感じる記者も少なくない。

「プレスセンターの外で読売新聞の記者に話しかけられ、ワクチン接種状況を含むアンケートに答えるよう要請されたのは少し驚きだった。そのうちの1人は、私がここに住んでいることを伝えると見逃してくれたが、もう1人は私が忙しいと伝えるまで質問を続けた」と、AFP局長代理であるサラ・ハッサン氏はツイートした。

記者たちは各ゲームの競技場が、新型コロナのエピセンターとみられることに懸念を示している。「40万回行われている検査で、陽性率は0.02%だ」とブルームバーグの記者、ジェロイド・レイディ氏はツイートしている。

さまざまな不便が生じているオリンピックではあるが、結局のところ、日本で開催されるほかの国際イベント同様、今回のオリンピックの最大の強みは、日本人ボランティアの世界記録並みの親切さである。外国人記者の中には、英語での情報の少なさや、ボランティアの英語力を嘆く声もあるが、ボランティアの親切さがこうした不便を補ってくれている、という声が多い。

例えば開会式の日、スタジアム内のWi-Fi接続がとても悪く、多くの記者がやきもきしていた。数時間後、ボランティアたちが最寄りのコンビで買ったであろう、ケーブルを手にして記者たちの間をかけめぐり、手助けしようとしていた。

「これまで5回のオリンピックを取材してきたが、ボランティアの人たちがこんなに助けてくれる大会はなかった。英語に問題があるのも、すべて許せてしまうくらいだ」と、イタリア人カメラマンのステファノ氏は話す。「シャトルバスが使いづらいのには困っているが、個人的にはこれまでで一番のオリンピックだったと思う」。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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