保育のDXで「教育の質向上」に挑む起業家の正体 「0歳児からの成長データ」で「要録」に変革を

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そこで土岐氏は、園児の衣類に取り付けるだけでうつぶせ寝の自動検知や体の向きを自動検知する体動センサーを開発、アプリで自動記録できるようにした。これがヘルスケア事業の始まりだ。現在「ルクミー」は、この午睡チェックや前述のフォトサービスのほか、検温・記録が数秒でできる「体温計」、保育士の「シフト管理」、保護者向けの「バス位置情報」と、サービスを広げている。

保育園や幼稚園は全国に約5万以上あるが、新規開拓のハードルが高い業界だという。同社は、民間保育園最大手のJPホールディングスに売り込むところから始め、児童出版大手のフレーベル館と代理店契約を結び、彼らの営業網を活用することで「ルクミー」の全国展開を進めていった。

そんな中、連絡帳や登降園管理サービス「キッズリー」と出合う。もともとはリクルートマーケティングパートナーズのサービスだったが、キッズリーの販売代理店でもあったフレーベル館を通じ、19年に同事業を買収することに。こうして、ユニファは保育現場の業務全般をサポートできる体制を整えたのである。

キッズリーは「登降園管理」や指導計画などを作成する「帳票管理」、保護者とコミュニケーションを取る「連絡帳」といったサービスをそろえている
(写真はユニファ提供)

ICT導入で約140時間削減を実現

同社は、こうした自社のサービスを通じて、「保育士不足」という深刻な社会課題の解決を目指している。保育士不足の主な要因は、長時間労働など業務負担が大きいため、なり手がいないこと。18年の経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、日本の保育士の勤務時間は諸外国と比較して最長の週50.4時間。保育士自身が社会からの評価が低いと感じている度合いも調査国の中で最も高くなっている。

保育士の待遇改善が急務であるだけでなく、保育士に選ばれる保育園をつくっていかなければ、保育園そのものも立ち行かなくなる構造になってしまっているのだ。

「保育園経営を安定させるためには、建物などのハードではなく、保育者の負担を減らすためのソフトにもっと投資すべきです。保育者の時間と心にゆとりができれば、もっと子どもたちや保護者と向き合えるようになり、よりプロフェッショナルな教育者も増えていくでしょう。そこから仕事のやりがいも生まれてくるはずです。

ICTはそのゆとりの創出に貢献します。実際、私たちのサービスをすべて導入している『スマート保育園』のモデル園(11施設)では、1カ月当たり約140時間を削減した園や、NECの感情分析ソリューションを使用した実証実験では、午睡チェック中の保育者のストレスが減ったというバイタルデータが得られた園もあります」

また、現状、保育士は勤務時間内に子どもと離れてほかの業務を行う「ノンコンタクトタイム」がほとんどないといわれているが、モデル園全体で40分以上のノンコンタクトタイムが取れている保育士が増加しているというデータ結果も出ているという。

時間ができたことでより深い保育の振り返りが可能になり、保育士が「仕事が楽しい」と感じるようになったというデータも蓄積されつつある。こうした成果から、保育の振り返りを促進するICT活用研修を強化するほか、幼稚園でもモデル園をつくる予定だという。

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ユニファのサービスをすべて導入した「スマート保育園」のイメージ
(図はユニファ提供)

データ活用で「教育の質の向上」を

ICTの導入はこうした業務の効率化とともに、保育データを蓄積して「保育の質の見える化」ができるというメリットもある。土岐氏は、保育データの活用によって子どもの健康状態の変化に気づきやすくなるだけでなく、教育面においても新たな可能性が広がると語る。

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