富士山は誰のもの?県が“登山税"徴収構想 8合目以上の所有権持つ浅間大社の反発は必至
このような動きの中で、大蔵大臣は行政決定をできないまま4年が経過した。このため、同神社は1957年、国を相手取り、境内地の帰属を求める裁判を起こした。地裁、高裁とも同神社の訴えを認めたが、国は最高裁へ上告、その後、長い争いを経て、1974年4月になって、「富士山8合目以上の土地について宗教活動を行うのに必要な境内地」とする最高裁の判決が確定した。
その後、同神社の再三の要請にもかかわらず、大蔵省は土地譲渡の手続きを無視した。最高裁判決から30年もたった2004年12月、1952年当時の国に対する同神社の訴えを取り下げることを条件に、同神社へ8合目以上を払い下げる通知を交付した。
この結果、気象庁、環境省、国交省関係の土地を除いた、約385万平方メートルの8合目以上の土地が同神社所有となった。
しかし、それでも富士山の所有権問題は解決しなかった。最高裁判決、財務省の払い下げ決定にもかかわらず、今度は静岡・山梨両県の関係市町が市町境の確定を行わないため、同神社は8合目以上の登記手続きができないままである。
市町の境界に争いがある場合、県知事の判断で裁定できるはずだが、両県知事は県民感情を考慮して、この問題を棚上げしてしまった。
結局、長い裁判を経て、所有権を勝ち取り、国の手続きも終えているのに、同神社の悲願とも言える富士山8合目以上の「所有権」確定は宙に浮いたままの状態が続いている。
神社は参拝料を徴収できない
世界遺産登録後も、両県は、同神社の所有権について何ら配慮することなく、すぐに任意の富士山保全協力金を始めた。これを“税金”徴収という強制的な制度にしてしまえば、5合目以上が「公有地」であるとほとんどの国民は錯覚してしまうだろう。同神社が長い闘いの末に勝ち取った「所有権」は骨抜きにされ、富士信仰と8合目以上の関係性も失われる可能性が高い。
多くの神社は境内地への入山に際して、参拝料を取るなどして神社の存続を図っている。ところが、同神社の場合、参拝料の徴収もできず、協力金は両県の収入となっている。
甲田吉孝宮司は「山小屋トイレ改修費用の90%に助成金が使われるなどしているが、奥宮のトイレ改修など政教分離の原則で当神社への支援は一銭もない。協力金の使途を見れば、そのほとんどは徴収のための費用に使われている。一体、何のための協力金なのか疑問は大きい」などと述べる。
世界遺産条約の本来の目的は、世界遺産の適切な保存管理で援助を必要とする国に国際援助の枠組みを提供することであり、条約の条項も世界遺産委員会が行う国際援助の方法について多くの部分が割かれている。
日本の場合、ユネスコへ拠出する側であり、日本の世界遺産は自国の費用のみで維持管理するのが筋である。富士山を保全管理するために、過剰利用を抑制せずに、増加する登山者らから“税金”を徴収するのは本末転倒だろう。
そもそも世界遺産推薦に当たって、8合目以上が同神社の神聖な境内地であるという真実を隠してきた経緯がある。両県が「不公平感をなくすため」“税金”徴収を打ち出すのならば、同神社は世界遺産委員会に「信仰」の聖地として守られていない現状を訴え、国際社会に「所有権」を認めてもらうべきである。
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