日中関係の最悪ケース、全面戦争か局地戦争か 戦争に発展し得るという危機認識が必要

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そもそも異常接近の現場は、中国が2013年11月に尖閣諸島の上空を含む東シナ海に一方的に設定した防空識別圏内。日本の防空識別圏とも重なり合い、日米の強い抗議を受けてきた空域だ。6月11日、中国共産党機関紙、人民日報の国際版の環球時報は、5月24日の中国機の自衛隊機への接近について、中国の戦闘機が緊急発進して日本の偵察機に対応したことで、自らの防空識別圏の設置が初めてその成果を示したとする評論記事を掲載した。

中国空軍は2013年11月26日、米軍の戦略爆撃機B52が中国の防空識別圏内を飛行した際には戦闘機を緊急発進させていなかった。以来、中国国内での弱腰批判を踏まえ、強硬姿勢を貫きつつ、防空識別圏をめぐる既成事実をいくつも積み重ねて、最終的な権益を手に入れようとしている。こうした中国の手法は、「サラミ戦術」とも揶揄されるもので、南シナ海の西沙諸島や南沙諸島の領有権問題でも中国が見せている。

いずれにせよ、日中の防空識別圏がオーバーラップする空域では、中国が自衛隊機に対し、SU-27戦闘機を緊急発進させ、日本も従来通りF-15を対領空侵犯措置行動に当たらせている。戦闘機による無用な挑発(特に中国側)から、空中戦すなわち武力衝突に発展することが懸念される。

ちなみに、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、自衛隊機に異常接近を仕掛けてきた中国のSU-27は、成都軍区の第33戦闘機師団第98航空連隊(重慶基地)に所属し、重慶から東シナ海までの飛行距離を踏まえると、尖閣諸島からは戦闘機でわずか十数分となる「目と鼻の先」の福建省の軍用空港を前線基地として利用している、とみている。同機はR-73 (AA-11 ア-チャー) 短距離空対空ミサイルを搭載しているとみられる。

局地戦か全面戦争か

日本の防衛省や外務省、軍事ジャーナリストの中には、かりに尖閣諸島周辺で日中軍事当局の小競り合いや武力衝突が起きた場合でも、それは局地戦にとどまる可能性が高い、との見方が根強い。この根拠の一つには、現代戦争では、どちらかの国が核兵器など大量破壊兵器を使えば、すぐに報復の大規模な攻撃を受け、互いを滅亡させる力があるため、いわゆる「恐怖の均衡」から、核戦争や全面戦争にはいたらずに限定戦争にとどまるとの考えがある。

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