「根性論が消えない」日本スポーツ界の時代錯誤 求められる「持続可能なスポーツ環境」の実現
鈴木前長官も意味もなくハードトレーニングをすることに否定的だったが、室伏長官も同じ考えだった。
さらに室伏長官は「不思議に聞こえるかもしれませんが、ハンマー競技の第一人者であり指導者である父からは“ハンマー投げをやれ”と強制されたことは一度もありません。父は子どもの頃に私がスポーツを嫌いになることを恐れ、自らがやりたいと思う瞬間が来ることを待ちました。そして適切な指導を行うことができたのです」と語った。
室伏重信、室伏広治の父子はなんとなく漫画「巨人の星」の星一徹、星飛雄馬父子を思わせるが、その関係性はまったく異なっていた。室伏長官は今年46歳。彼がこの競技を始めた30数年前から、日本のトップアスリートは「自分の適性に応じたスポーツ」を「適切な時期」に「自発的に選択」していたのだ。
残念なことに、日本のスポーツ界には「根性論」がまだ根強く、子どもたちに強制的にきついトレーニングをさせる指導者がいる。しかし室伏長官の言葉からは、そうした指導がオリンピックなど世界に通じるアスリートの育成とは無関係であることがはっきりわかる。
スポーツ分野とSDGsの関係
続くパネルディスカッションでは、「子どもの権利とスポーツの原則」起草委員会のメンバーである高橋大祐弁護士をモデレーターとして、以下の企業やスポーツ協会の取り組みが発表された。
- ・ミズノ
- ・ソフトバンク
- ・帝人
- ・アシックス
- ・LIXIL
- ・クボタスピアーズ
SDGsとは、国連が定めた持続可能な開発のための国際目標であり、すべての人権の実現や、持続可能な開発の3側面である「経済・社会・環境」の調和、貧しい人々や脆弱な状況下にある人々に対する連帯の精神などがうたわれている。
一見、SDGsと「子どもの権利とスポーツの原則」は、関連性が低いように思われる。しかし、一部指導者の強圧的な指導は、深刻な人権問題である。また、貧富の格差は子どもたちの「スポーツをする権利」を侵害している。子どもたちに健全なスポーツ環境を提供することは、SDGsの考え方に沿っているのだ。
日本のスポーツ選手の多くは、学校を卒業するとスポーツをやめてしまう。過酷な練習によって途中でスポーツを断念してしまう選手も多い。高齢化、少子化が進む中でそういう状況を改善し、「持続可能なスポーツ環境」を実現しないと、日本スポーツの将来性はなくなってしまう。スポーツ関連企業が、子どものスポーツ環境をよくしていくことは、自らのビジネスを発展させることにつながるのだ。
ミズノの水野明人社長はビデオメッセージで「私たちはスポーツを通じたSDGs達成への貢献を目指しているが、その一環として『次世代を担う子供たちの運動能力と体力の向上』を掲げている」と語った。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら