相鉄「都心直通」の陰で姿を消した昭和の名車 今年11月に引退した新7000系の魅力を大解剖

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新7000系の引退とともに営業用車両から消えたのが、電磁直通弁式電磁直通ブレーキというブレーキシステムで、日立式電磁直通ブレーキという別名があるように、日立製作所の技術だ。

鉄道車両のブレーキには圧縮空気が使用され、踏面ブレーキの場合は圧縮空気を用いて車輪にブレーキシューを押し付け、ディスクブレーキの場合はパッドと呼ばれる部品をブレーキディスクと呼ばれる円盤に押し付ける形で列車を止める機構になっている。ブレーキの強さは空気圧の調整で決まるが、10両編成で200mもある列車では、ブレーキをかけてから実際にブレーキが働くまで、空気圧の調整に時間がかかってしまう。電磁直通弁式電磁直通ブレーキでは、電磁直通弁という電気で動作する空気弁を用いてブレーキの動作を早めたもので、同業他社で採用された電磁直通ブレーキとは仕組みが異なり、相鉄の独自採用となっていた。

新7000系も1988年の増備車(7751×10以降)から抵抗制御をやめてVVVFインバーター制御を採用した。抵抗器を用いて直流モーターの回転数を変化させる手法をやめ、半導体を用いて交流に変換しつつ、交流モーターの回転数を変化させる方法を新たに導入している。VVVFインバーター制御では、回生ブレーキと呼ばれるモーターを用いたブレーキが使用できるが、回生ブレーキで止まる力が足りない分は従来の空気圧による空気ブレーキに頼る形となり、今度は回生ブレーキと空気ブレーキとの混合が課題となる。さらに、回生ブレーキを用いて省エネルギー化を図るとなると、回生ブレーキが働く分、空気ブレーキを減ずるというブレーキの演算が必要となり、ブレーキシステムの進化に迫られることになる。

電磁直通弁式電磁直通ブレーキではブレーキシステムの進化に対応せず、このブレーキシステムは新7000系で終了となっている。

ちなみに、運転士が行う新7000系のブレーキの操作方法は、昔ながらの電車と同じ手法だ。右手側のブレーキハンドルを右側に回して「込め」の部分に持っていくとブレーキ用の空気圧が上がる。ブレーキに必要な空気圧を設定すると、ハンドルを少し左に戻して「重なり」の位置に置き、その空気圧を維持する。ブレーキの力が強い場合はハンドルをさらに左に回して「弛め(ゆるめ)」の位置に持っていって空気圧を減らし、適正なブレーキの力・空気圧になったら右に回して「重なり」の位置の戻すというものだ。

通常より短い約30年で引退

ややこしい操作方法だが、「水を飲みたいので水道の蛇口をひねってコップに水をくみ、飲みきれなかった水は捨てる」という作業に似ているのかもしれない。

新7000系登場時の車体色。赤とオレンジのラインが使われていた(筆者撮影)

一般的な電磁直通ブレーキや後の電気指令式ブレーキでは、ハンドルの角度に応じて必要なブレーキの力が得られる形で、自動車でブレーキペタルを強く踏めば急ブレーキとなるのと似ているが、それだけブレーキの操作方法が簡単になっている。

電磁直通弁式電磁直通ブレーキの車両は、7000系を改造した黄色の事業用車(モヤ700系)で健在だが、新7000系の引退で営業用車両からは消える。

関東の大手私鉄では、電車の寿命を40年程度に設定している事例が多いが、新7000系は登場から30年あまりの活躍で引退・廃車となる。もし、相鉄・東急直通線の整備がなかったら、もう少し長生きしていた車両なのかもしれない。

柴田 東吾 鉄道趣味ライター

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しばた とうご / Tougo Shibata

1974年東京都生まれ。大学の電気工学科を卒業後、信号機器メーカー、鉄道会社勤務等を経て、現在フリー。JR・私鉄路線は一通り踏破したが、2019年に沖縄モノレール「ゆいレール」が延伸して返上、現在は車両研究が主力で、技術・形態・運用・保守・転配・履歴等の研究を行う。『Rail Magazine』(ネコ・パブリッシング)や『鉄道ジャーナル』など、寄稿多数。

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