ローランド創業者はなぜMBOに反対なのか 楽器業界の"レジェンド"が胸の内を明かした

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――経営立て直しのプランについては、現経営陣と梯さんの間で何が違うのか。まずは経営陣が責任を取るべきということか。

その通り。そのうえで、海外の生産についてはどこに重点を置くかを考え直さなければならず、日本でできるものは日本に取り込まなければならない。そして、本社の管理コストの低減が必須。

他社に比べてもまだまだ経費が重いはずだし、生産拠点ごとに見ると、永久に黒字が出ない体質のところもあるのではないか。こういった点はずいぶん前から指摘しているが、いっこうに進まない。

私は昨年、自分の所有していたローランド株式を全部売った。自分の子どもを売り飛ばすような気持ちだったが、もうここまで理念に外れたことをされては自分の会社ではないと思ったからだ。

それでも、この会社の創業者は私しかいない。うまく立て直してほしいという気持ちもある。そこに何も知らない外部のファンドが入って、好きなようにやるなんて、最悪だ。

ファンドにアートウエアは理解できない

――ファンドにもいろいろあるのではないか。タイヨウがローランドに出資して7年くらいになり、経営陣はタイヨウについて「事業への理解が深い」と評している。

ローランドはシンセサイザーの技術を核に、電子楽器の仕事を40年間やってきた。売り上げこそ違うが、業界の中のポジションで言えば、トップのヤマハさんと対等なところまで来られた。

これはひとえに、品質のいいものを作ってきたからだと信じているし、これからもその道を貫くべき。そうすると、そう次々に新しいものを作れるわけではない。40年間で、たったこれだけのものしかできなかった、というくらいだろう。

楽器業界で製品も流通も大きく変わってきている中、どうやったら生きていけるかを再考する必要がある。その時に念頭に置かなければならないのは、ハードウエア、ソフトウエアというものがあったら、楽器は「アートウエア」であるということ。芸術の領域に入るものだということだ。

本来は売り上げなんて具体的な目標を掲げてやる仕事ですらなく、振り返ってみたら利益が出ているというくらいでいい。規模ばかり追って、いい楽器を作ることはできない。

そういった仕事の仕方は、ファンドの人には理解しがたいところではないか。グラミー賞を受賞した私の「MIDI」の取り組みも、受賞するまでに30年かかった。そういう開発は、目の前の利益を追求しなければならないファンドの人たちには、難しいことだろう。

そもそも外に頼らなくたって、アートウエアの価値観を理解する社内の優秀な人材がたくさんいる。われわれの売り上げの80%は海外から来ているのに、今の役員には海外経験豊富な人が入っていない。そんな不適当な人事しかできない、才覚のない経営陣ではもう無理だ。

65歳で経営を引退してから、次の代にしっかり引き継ぎを行ってきたつもりだった。それなのに、人生の最後にファンドみたいなところに取っていかれるなんて、いくらなんでも情けない。

※ 詳しくは「週刊東洋経済」2014年6月7日号(6月2日発売)掲載の「核心リポート04」をご覧ください。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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