JR東海と県の対立をあおる「静岡新聞」への疑問 大井川流域で圧倒的存在感、住民への影響力大

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記事は、大井川直下の断層について、「東俣から涵養された地下水が大量に賦存(潜在的に存在)している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される」と問題視し、「大井川直下の地質を重点的に調べるボーリングの追加調査は必須」と解説した。大見出しで「大量湧水の懸念」を強調したから、流域住民らに与えたインパクトは非常に大きかった。

JR東海が静岡県に貸し出した膨大な資料。静岡新聞の記事はそのコメントのみを使った(静岡県提供)

9月23日会見で川勝知事は、この記事に触れ、「そんな事実があったのかと驚いた。(JR東海は)資料を公開していない。非常に不愉快だ」などと強く批判した。県はJR東海に一般公開するよう求めたが、10月8日にJR東海は流域住民に不安を与えるとして「公開は適当ではない」と回答した。知事は会見で「南アルプスに関わる。当然知る権利がある」などと強調、改めて公開を求めた。テレビ、新聞各社は「JR、資料公開拒否」などと伝えたから、JR東海の「流域住民に不安を与える」の真意は伝わらなかった。

10月20日に改めてJR東海は「専門知識を有する関係者による分析・議論を踏まえず単に公開すれば、不安を与えてしまう結果になる」などと丁寧に再回答したが、県は22日、国交省に公開を指導するよう求めていた。

難波副知事は資料の性格を承知しているはずだが…

10月2日付の筆者記事(静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ)で、県はJR東海から資料を借りてデータ化していたのだから、知事はじめ県関係者は資料の内容を十分に承知していたことなどを詳しく紹介した。

地質調査会社は地質図や地形判読、現地踏査などで断層を見て、すべての可能性を指摘するのが仕事であり、成果物は専門家によって分析・議論が行われていない生の基礎データ。JR東海の基礎データを元に、2018年11月21日、県は専門部会を開催、この席でもさまざまな意見が出ている。責任者の難波喬司副知事はこの会議でホワイトボードに問題のコメント付きの断面図が貼ってあったことを認めているから、資料の性格がどのようなものか十分に理解していたはずだ。

ところが、静岡新聞は”スクープ記事”を基に、再三再四にわたって、「大量湧水の懸念」を強調、さらに「県はJRに資料の一般公開を求めている」と報道した。JR東海が何度も専門性の高い基礎データであると説明しても、同紙や県は耳を貸さなかった。難波副知事は同資料が膨大な基礎データの1つであり、その中の「コメント」がどのような性質を持つのかも十分、承知していたのにも関わらず、JR東海にひたすら「一般公開」を求めていた。

「第三者への譲渡及び提供をしない」などの条件で、JR東海は資料を県に貸し出しているのだから、当然、県は静岡新聞へ基礎データの資料が渡った経緯を調べる責任がある。JR東海は県に確認するよう求めたが、県は「承知していない」と回答した。同紙の報道はとどまるどころか、流域の利水団体を巻き込む大騒ぎに発展していた。

次ページ有識者会議のJR東海の説明に納得したが…
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