無症状感染者は素通りできる「検温」の無意味感 検温でできるのは「やってる感」の演出だけだ

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もちろん、検温によって重い症状が出ている人をあぶり出すことはできる。とはいえ、そこまで体調が悪化している人はそもそも社交に興じたり、外食に出かけたりしないはずだ。それに感染を広げているのは多くの場合、いわゆる無症状感染者であることを示す証拠も積み上がっている。無症状感染者というのは、感染していても体調に問題がなく、発熱やその他の症状も出ていない人のことだ。

検温は「車で長旅に出る前にオイル点検する」ようなものだ、とジョンズホプキンス大学医学部の感染症専門医デービッド・トーマス教授は話す。「安心感は得られるが、事故で車が大破したり、タイヤが外れたりするのを防げるわけではない。(オイルを点検したからといって)車の旅が特段、安全になるわけではない」

「検温すれば、何か対策している気分にはなれる。が、ウイルスをまき散らしている人々はほとんどひっかからない」とトーマス氏。

発熱しない感染者もいる

高熱があればたいてい体調が悪いはずで、外食の予定があったとしても普通は取りやめにするだろう——。ニューヨークの大手医療機関、ノースウェル・ヘルス病院で副医長を務めるトーマス・マッギン医師もこう指摘する。検温では、熱がありながらも、それを本人が自覚していないという、ごく例外的なケースにしか対応できないという。

それに熱がなかったからといって「感染していないということにはならない。検温の精度はあまり高くない」(マッギン氏)。

ただ、マッギン氏は検温にもメリットはあるかもしれないと話す。検温を行うこと自体が人々に感染予防の重要性を思い起こさせる強力な社会的メッセージとなるからだ。「検温が行われていれば人々はより用心するようになる。入り口に検温の担当者を配置しなければならないほど大ごとになっているのだ、自分たちもまだ安心するわけにはいかない、というように」

問題は、発熱は新型コロナ感染症の症状の1つではあっても、感染者全員が発熱するわけではないことだ。さらに言えば、ほかの症状の多くも感染者によっては出ないことがある。医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された論文の中で、医師らは無症状感染者が感染を広げる現象を「新型コロナ感染対策のアキレス腱」と呼んでいる。

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