DV加害者だった52歳夫を変えた強烈な「自覚」 耐えかねた41歳妻が被害者になり気づかせた

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横浜の「ステップ」でのプログラム修了が近づいた頃、拓さんは「自分は加害者になれた」と考えるようになったと話す。「加害者になれた」とは、どういう意味だろうか。

「プログラム参加者に限らず、関係性の暴力はあちこちにあることに気づいたんです。しかも、それを自覚できている人はそう多くない。加害者にすらなれないで人を傷つけ続けている人がいるんです」

別居から8カ月ほど経った頃、亜衣子さんの提案で2人は再び一緒に暮らすようになった。拓さんは1人暮らしになってから毎日、謝罪の言葉や「ステップ」での学びをメールで報告していた。亜衣子さんは最初、半信半疑だったという。それでも、夫が少しずつ変わっている実感はあった。例えば、呼び方。以前は「おい」や「おまえ」としか呼ばれなかったが、「亜衣子さん」に変わった。食卓にソースが出ていなくても、拓さんは何も言わずに自分で取りに行く。

怒りを乗り越えるのも結局は自分

「私もすぐに許せたわけではなくて、拓さんにやたら腹が立つ時期もありました。でも過去は変えられない。怒りを乗り越えるのも結局は自分だなって。拓さんも初めは肩身が狭そうな感じでしたけど、今では軽い口げんかもできるようになりました」

中川拓さんと、妻の亜衣子さん(写真:中川拓さん提供)

拓さんと亜衣子さんが立ち上げた一般社団法人「エフエフピー」の名称は、「フィフティ・フィフティ・パートナーシップ」の頭文字を取った。いまは10人ほどからDVや夫婦関係の相談を受けている。

亜衣子さんは、DVの被害を受けている人に「まずは被害者になってください」と訴える。自分たちがそうだったように、DVがあっても加害者にも被害者にも当事者意識がない場合が多いからだ。

「まずは自分が被害者にならないと、加害者が生まれないんです。加害者側が自ら気づいて変わるのは難しい。すごく勇気がいることですが、第三者に相談しながら行動を起こしてほしいです。私も渦中にいるときは、被害者が加害者と再び仲良くできることが理解できませんでした。でも私は今、幸せだなって感じます。『うちの夫は変わらない』と諦めず、相談してほしいです」

(取材:ニシブマリエ=フリーライター)

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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