日系大手に続々内定、韓国「就職カフェ」の実態 なぜ韓国の若者が日本で求められているのか

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企業情報についても、オフィシャルに得られる情報は限られているため、内定者との交流イベントを、月に数回の頻度で行っている。カフェを作った一番の目的もそこにあるという。

面接対策では、想定問答や日本語表現、態度、身だしなみなどのほか、内容についても指導する。日本企業の内定をすぐに得られる人とそうでない人の差は、コミュニケーション能力と論理力の有無にあると感じているそうだ。

「韓国人マインドで臨むと、スキルや結果をアピールしてしまい、不合格に繋がりがち。私は文化背景を問わず、状況把握が正しくできるかどうかにこそ、コミュニケーション能力の差が表れると考えていますが、面接でもその点が測られています。日本企業の見ているポイントは韓国企業とは違うので、別のものと考えてほしいと伝えています」

こじれた日韓関係と就職は無関係

春日井さんはカフェを通じて、韓国の若者たちが韓国社会のストレスや呪縛から解放されていく過程を目の当たりにすると話す。

「日本への就活に取り組む中で、学生たちの意識が確実に変わっていきます。韓国人はいったん仲間と認識した場合は深く付き合いますが、そうでない場合は情が薄い。どちらかというと就活生同士はライバルですが、マインドセットを変えていくことで、協力し合うことを覚えていきます。これは日本で働く上でも重要な要素です。そして実際に日本で就職した後は、他人と自分を比べなくなる。そういう意味では、草の根で社会貢献ができているのかな、と思います」

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また、ここ数年で過去最悪と言われるほどにこじれた日韓関係についても、気にする人はほとんどいないという。「ここには意志を固めてから来るので、政治的なことはそれほど影響がないようです。外国人差別について不安視をしている人はいますが、語学力と意識の持ちようで解決できるのではと思います」

人手不足が叫ばれる日本と、高スペック人材が余り、就職難にあえぐ韓国は合わせ鏡のようなもの。そして両国間の問題の多くは、それぞれが単独で解決できるものばかりではなく、建設的な往来を行うことで相互的に解決されていくに違いない。春日井さんへのインタビューを通じて、あらためてそんなことを感じた。

安宿緑 ライター、編集者

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やす やどろく / yasu yadoroku

東京都生まれ。東京・小平市の朝鮮大学校を卒業後、米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に日本のメディアで活動を始める。2010年、北朝鮮の携帯電話画面を世界初報道、扶桑社『週刊SPA! 』で担当した特集が金正男氏に読まれ「面白いね」とコメントされる。朝鮮半島と日本間の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様と心の動きに主眼を置く。韓国心理学会正会員、米国心理学修士。著書に『実録・北の三叉路』(双葉社)。

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