「ITバブル崩壊は間近だ」と叫ぶ人が見逃す真実 2000年に崩壊した時と、どこがどう違うのか

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しかし、筆者は長期的にはアメリカのIT関連株の行方については悲観視していない。たとえば、前述のように、ナスダック総合指数の対S&P500指数比は直近ピークで3.33倍だったが、ITバブル期のピークでは3.62倍で、そこには達していない。SOX指数の直近ピークの0.66倍も、同じくITバブル期の最高値0.91倍に届いていない(ITバブル期の比率のピークは、両者とも2000年3月、週平均値ベース)。したがって、現時点で「ITバブルの崩壊だ」と騒ぐのは、当たっていないと考える。

また長い目で見ると、ナスダック総合指数の対S&P500比の上昇傾向は、2009年頃から10年以上続いている。その背景には、IT産業が、長期的に成長を持続する分野であり、それが長年株価を押し上げてきた、という点がある。

足元のコロナ禍で、リモートワークやネット娯楽、巣ごもり消費を支えるEC(電子商取引)にスポットライトが当たり、それがIT関連株の短期上昇を引き起こしてはいる。だが、仮にコロナ禍がなかったとしても、そうした製品やサービスは拡大していっただろう。

こうした諸点を踏まえると、アメリカを中心としたIT関連銘柄の株価下落は、短期的にはまだ少し持続する恐れがあるが、長期的な株価上昇トレンドが崩壊することにはなりにくいだろう。

株式市況全体が崩れるまでには至らず

また、IT以外のセクターも含めて、日米等主要国の株式市況全般を展望すると、投資環境として月次のマクロ経済指標などで推し量れば、4~5月を底とした景気回復が明確になってきている。企業収益の四半期ベースでの改善を確認するには、7~9月期の実績発表を待たざるをえず、それまでは不透明感が残りそうだが、アナリストの企業収益見通し全般の傾向からは、アメリカでは明らかに、日本ではじわりと、利益予想値の上方修正が広がりつつある。

こうした経済・企業収益環境の改善を踏まえると、ITセクターの株価の足が止まる局面では、これまで安値に放置されてきた、景気敏感セクター(日本では、設備機械や電子部品、機械部品、総合商社、海運、鉄鋼・非鉄・化学などの素材産業)を、物色しようとの投資家の動きも強まりうる。

すると、日経平均株価やニューヨークダウなどで測った株式市況全般が、ITセクターの株価不振があっても、それほど大きく崩れるとは見込みにくい。

結局、これまでも当コラムで述べてきたように、上述の7~9月期の企業収益が公表される前、アメリカ大統領選挙の前の10月末頃までは、全般に不透明感が強く、主要国の株価指数は動意に乏しいだろう。そのように、株価指数の力強い上値追いが起こると予想しにくいのは、目先のITセクターの株価調整の懸念が上値を抑えそうなことや、これまでの景気回復のなかで、リベンジ消費や補助金など一時的な所得による押し上げ効果が一巡し、回復基調における中だるみが生じそうなこともある。

しかし一方で、主要国の経済政策が株価を下支えするだろうし、述べたような景気全般の改善基調も、株価の大幅調整を回避させるだろう。したがって、向こう1カ月程度は、主要国の株価指数は「横ばい」ないし「保ち合いに若干の上昇の色がついた程度」で推移すると考える。その先、7~9月期の企業収益の改善を確認し、アメリカ大統領選挙を過ぎて同国の政治的不透明感が剥落してからは、主要国の株価はやや上昇力を高めるものと見込んでいる。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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