勝者なきビール消耗戦、怒濤の新商品攻勢でも縮む国内市場
「これまで取り組んできたことが形になった。とても晴れ晴れした気持ち」
1月15日、2009年のビール類シェアで9年ぶりにトップに返り咲いたキリンビールの松沢幸一社長は、かみ締めるように喜びを語った。会見にはスーツの上に黄色いジャンパーを羽織って登場。看板商品である第3のビール「のどごし〈生〉」の店頭営業用のユニフォームだ。
アサヒビールに首位を奪われて以来9年間、後塵を拝してきたキリン。近年は第3のビールを伸ばして僅差(きんさ)まで追い上げてきた。09年は主力ブランド「一番搾り」のリニューアルを断行し、発泡酒のシェア拡大にも努めて接戦を繰り広げた。
最終的な勝敗を分けたのは、不況という“追い風”だった。ビールより酒税の低い「第3」の市場が2割以上も膨らんだことで、この分野で4割を超すシェアを握る「のどごし」が快走。キリンを首位へと導いた。
サッポロは値下げ
だが、手放しで喜べない。業界には目下、寒風が吹き荒れる。少子高齢化に加えて、急激な景気悪化で需要減少が止まらない。ビール5社が発表した09年のビール系飲料の出荷数量(課税ベース)は前年比2・1%減と、5年連続で過去最低を更新。首位のキリンでさえ、数量は前年割れとなっている。
今年も状況は変わりそうにない。それどころか、消費者の財布のひもは固くなるばかりだ。今や「同業のみならず、娯楽や通信などもライバル」(アサヒビールの池田史郎・酒類本部マーケティング本部長)と厳しさは一段と増している。
その中で、第3のビールだけは話が別。引き続き成長が期待されており、ビール各社は拡大を見据えて矢継ぎ早に新商品を投入する。主力ブランドに加えて、個性の異なる「もう一本」を投入すれば数量は稼げる。“高価”なビールの減少を補うだけでなく、新規客の開拓につなげたい考えだ。
各社ともなりふり構ってはいられない。すでに「麦」や「コク」など風味の多様化が進んでいるが、今年は細分化に一層と拍車がかかる。