今年の賞金女王は、横峯さくらプロ。今季最終戦メジャーで勝負が決まった戦いは、誰も予想できない試合展開だった。
初日。組み合わせは賞金ランキング順なので、諸見里しのぶプロと横峯プロは同組。いきなりガチンコ対決だ。「意識しないで自分のプレーに徹するだけ」と言った2人。でも目の前の敵は正直気になる。ただ気にしていたら相手のペースになってしまう。そこでトップを走る人のスコアを目標にするなど、意識を別の場所においてプレーするのだ。3日目まではまるでこの1年の縮図のようだった。前半2日目横峯プロがリードしていたのを3日目で諸見里プロが逆転。この流れからいくと諸見里プロリードで決着するのかと思われた。
そして最終日。横峯プロのゴルフは一進一退。13番ホールまでゴルフの流れはじっとしたまま動きを見せない。一方の諸見里プロもなかなかスコアが伸ばせない。ところが、横峯プロの14番で空気が動いた。それはとてつもなく、大きなうねりだった。本人も強いと思った第3打のアプローチがカップインバーディ。次は15番の第2打。バンカーのへりのマウンドに当たったボールはその勢いがほどよく減じられ、しかもバンカー側ではなくグリーン上にはねた。なんとそれもカップめがけて転がってカップの縁に止まった。あわやイーグルかと思われたそのショット。それは神様の存在を感じる、そんな一打だった。
そして突然降って湧いた優勝のチャンス。大きなプレッシャーがかかる中、試練は最後にきた。それは18番のパーパット。上り2メートルの逆目スライスライン。この位置からはどの選手も打ち切れずにショートしていた。実は本人、10月の日本女子オープンのプレーオフでのパットがフラッシュバックしたらしい。「グリーンの読みがキャディと合わず、心が決まらないまま中途半端に打った。そのボールは弱々しくカップに届かなかった。あの二の舞いだけは絶対したくない。今度はラインの読みもキャディと一致し、しっかり悔いのないように狙ったラインに打ち出した」。横峯プロの気持ちのこもったボールはカップの中に飛び込んだ。
試合で勝つために必要なものはいろいろある。技術、精神力、コース戦略、体力、そして運。今回はとりわけこの運も大きく感じた。結果負けた諸見里プロだが、この1年のゴルフは目を見張るすばらしい試合が多かった。彼女のようなタイプのゴルファーは抜けたレベルでゴルフができる。これからの努力次第でさらに伸びるだろう。1年間、賞金女王というプレッシャーにさらされて、その重圧に押しつぶされそうになりながらも必死に戦ってきた2人。目標を高く持って、有言実行の若手プロが増えてきた。考え方、ゴルフの内容、目標の取り方も世界のトッププロを意識したものになってきている。こうなると世界で活躍できる選手がますます増えてくるだろう。
1963年福島県生まれ。89年にプロ初優勝と年間6勝を挙げ、90年から米ツアーに参戦、4勝を挙げる。欧州ツアー1勝を含め通算15勝。現在、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)理事。TV解説やコースセッティングなど、幅広く活躍中。所属/日立グループ。
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