「鉄道廃線跡本」の編集者が語る大ヒットの秘訣 自分の「好き」が大切、発売前から注文殺到
――特に強く印象に残っている廃線跡は?
10巻目の表紙に写真を使った、函館本線旧線の初代伊納(いのう)トンネルは、思い入れの深い廃線跡の遺構だ。
1898(明治31)年に建設された延長72.2mのトンネルで、伊納側出口の要石(かなめいし)に、当時の鉄道作業局の紋章である蒸気機関車の動輪がかたどられている。ここは石狩川の渓谷沿いの難所で最後にトンネルを開通させたことで小樽の手宮駅から旭川までが全通した、記念すべき象徴的なトンネルだったことを物語っているのだ。トンネル上部の帯石に記念碑的な扁額をつけているところはあるが、要石に装飾している例はほかに知らない。
ここはその後2度新しいルートに変わって現在線になっているので、旧旧線と言える。
鉄道廃線跡の現在は?
――現在の鉄道廃線跡はどうなっているのでしょうか。
廃線跡の土地は、所有権は各鉄道会社のものが多い。当時はおおらかで問題なく立ち入ったりできたが、現在では管理の問題で入れなくなっているところが多くなっている。トンネルが崩落するとか、軌道の地盤が崩れるといった危険性もあるので、仕方ないことだが。
放置されて樹木が生い茂り自然に還る廃線跡がある一方で、整備されてハイキングコースや遊歩道、車道、サイクリングロードなどに再利用されているところもある。トンネルは、ちゃんと整備するかふさぐか、どちらかだ。ワインの貯蔵やきのこ栽培の施設に活用されているトンネルもある。
廃線跡にたくさんの人が訪れたことで、それを積極的に地域振興や観光に生かそうというところも、わずかだが出てきている。
山の中の森林鉄道などだと、そのまま登山道になっていて、無造作にレールが傍らに積んであったり犬釘が落ちていたりするようなこともある。
駅舎などは、本の取材当時にはあったが失われているものが多い。その一方、保存されて資料館などに利用されているものもある。
時が経てば変わっていくのは当然だが、鉄道の記憶が残るような活用の仕方をされるとよいのだが。
――『鉄道廃線跡を歩く』も含めて、編集に携わった鉄道本は何冊ですか?
ちゃんと数えたことはないが、JTBキャンブックスだけで約150冊。隔週刊で発行した『にっぽん列島鉄道紀行』が30巻。ほかにも単行本や写真集、ムックなどもあるので、250冊超だろう。
主に鉄道書の編集をしていたのは1992~2015年なので、平均して年間20冊くらい作っていたことになる。
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