台風19号で浸水、埼玉・東松山の被災者はいま 自宅再建もままならず、消えぬ水害の恐怖

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早俣地区の住宅のほとんどが天井近くまで泥水に浸かり、市役所から全壊と判定された。堤防の決壊現場からほど近い場所にあった神社は土台ごと流された。神社の氏子総代を務めていた高橋さんは「地区の財力ではとても修復できない。どうしたらいいものか」と途方に暮れている。神社では1年間に5回の祭礼があり、地域の人々をつなぎ留める役割を果たしていたが、再建の手がかりがない。

被災から3カ月が過ぎても、高橋佳男さん宅の1階部分は骨組みのままだ(記者撮影)

早俣地区では多くの人が、埼玉県が用意した「みなし仮設住宅」と呼ばれる借り上げ住宅や、東松山市の市営住宅などで避難生活を余儀なくされている。

早俣地区の自治会長を務める高橋修志さん(70歳)は、隣町にあるみなし仮設住宅から、片付けのために毎日自宅に通っている。高橋さんも、再び来るかもしれない水害への不安を募らせている。

住宅解体か、それとも修繕か

「同居していたせがれは自宅の土地が残っているし、田んぼもあるのだから、住み続けたいと言っている。でも、建て替えなければ住めない。2年間とされているみなし仮設の入居期限のうちに、どうするか決断しなければならない」(高橋修志さん)

東松山市では公費による住宅の解体の申し込み受け付けが1月14日に始まっており、受付期間は3月末までとなっている。しかし、浸水被害の直後から支援活動を始めたボランティア団体「チーム東松山」の松本浩一代表理事は、「水害の再来を心配して、住宅修繕をどこまで進めてよいのか、あるいは解体に踏み切るべきか、見極めがつかない人が多い」と指摘する。

現在、被災者に用意されている公的な支援策は、災害救助法に基づく仮設住宅の提供か住宅応急修理(半壊以上の場合で上限59万5000円、一部損壊(準半壊)の場合で上限30万円)のほか、被災者生活再建支援金(全壊世帯で300万円、大規模半壊世帯で250万円、いずれも住宅を新たに建設・購入した場合)などに限られる。東日本大震災時のような、住宅を移転する際の土地の買い上げや、災害公営住宅の提供は計画されていない。

集会所も浸水被害を受けた早俣地区では、住民同士が顔を合わせて話し合うこともままならない。「プレハブでもいいから集まれる場所がほしい」。高橋佳男さんの訴えは切実だ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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