イラン司令官殺害、米軍の攻撃は正当なのか 国内向けと対国連で異なる説明をするわけ
ところが同じアメリカ政府が国連に対してはまったく別の説明をしている。1月8日付で国連に提出した文書では、スレイマニ司令官殺害について「国連憲章に定められた自衛権の行使である」としている。
具体的には「ここ数カ月エスカレートした、イランやイランに支援されているイラクの民兵組織などによるアメリカ軍に対する軍事攻撃に対するもの」としたうえで、過去数カ月間に行われたアメリカ軍などに対する軍事攻撃を列挙している。
つまり、トランプ大統領が強調していた近い将来に起こりそうな差し迫った脅威ではなく、過去に行われた攻撃を理由に自衛権を行使したという理屈になっているのだ。
最も過激な攻撃案を選んだトランプ氏
こうした違いはなぜ起きたのか。まずアメリカでは議会の承認がない状態で大統領が軍隊を投入する権限を制限する「戦争権限法」が制定されている。大統領の暴走を抑制するための法律である。ただし完全に禁じているわけではなく、敵対行為について差し迫った恐れが明白である場合などには議会の承認がなくても軍を投入できるとしている。
これに対し歴代大統領は例外なく、この法律が大統領の権限を侵害するもので違憲の疑いがあると批判的立場をとっている。また、在外アメリカ人の保護や大使館の防護などにも軍隊を使えると主張してきた。
こうしてみると、スレイマニ司令官殺害に対するトランプ大統領の当初の説明は、この戦争権限法や歴代大統領府の主張を踏まえたものになっていることがわかる。
ニューヨークタイムズなどによると、アメリカ軍はイラクやその支援を受ける各国の軍事組織に対する軍事攻撃案をいくつか示したが、スレイマニ司令官殺害は、その中で大統領が選ばないであろう最も極端な選択肢として提示されていた。ところが、トランプ大統領はこの最も過激な案を選んでしまった。
ホワイトハウス関係者らはスレイマニ司令官殺害を正当化するための理屈をあわてて用意しなければならなくなり、それが「差し迫った脅威」であり、「4つのアメリカ大使館攻撃計画」だったのだろう。ところが、エスパー国防長官らがそれをあっさりと否定したことで、トランプ大統領の説明がいい加減なものだったことが露呈してしまったのだ。
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