シンクタンクの裏側は地道な業務の積み重ねだ プログラムオフィサーの編集力が支えている

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今井:それは私もずっと考えているんです。1つには、業界の人たちのヒエラルキー意識が障害になっているんじゃないでしょうか。大学も同じですけど、シンクタンクでも、働く人たちの中に研究者が偉くてそれを支えるスタッフは下に置かれているという意識はあると思います。

それほど詳しいわけではありませんが、アメリカでは多くの研究者が若手のときにプログラムオフィサーの仕事を経験しています。けれど、日本では一般企業も役所も職業が非常に柔軟性のないメンバーシップ型ですから、一度、レールを外れると、その先どうなるかわからないという状況があります。その中で、シンクタンカーになるために、こういう経験がしたいとか、ああいうことをやっておきたい、というようなパイプラインが育つまでには至っていません。それで、研究は研究者、それ以外のことは事務方という区別をしてしまっています。それは、とてももったいないことだと思います。

幸いなことに、小さな所帯のシンクタンクでは、そうも言っていられませんでした。

船橋:なんでもやらなきゃいけない。

今井:はい。そういう気概があったので、研究以外の仕事も、なんでもやるということができました。

船橋:それがよかったんですね。

シンクタンクの広報が果たす役割

船橋:シンクタンクでは広報も担当をされていましたね。政策研究の成果を広報するというのも難しい仕事だと思います。目に見えないものだし、一般の人からすれば、「政策?それは政治家がやるでしょ。そのために選んでるんだから」となりますからね。どんな形でやっておられたのですか。

今井:手探りでやっていたという感じでした。振り返ってみると、当時、広報担当として私を採用してくださったのは、とても先駆的なことだったと思います。それまで総務や政策研究の人が兼務していた広報を、1つのセクションにしたわけですからね。広報専業なら手探りでもいろいろトライしてみるしかありませんでした。

基本的にはテレビや新聞、雑誌の記者や書籍の編集者に使っていただくことが第一歩ですから、プレスリリースや懇談会などを通して理解を深めていただいたり、関係を築いていったりということに腐心しましたが、いろいろ試してみてわかってきたのは、政策を実現するためには、時間軸があるということでした。

研究者が考えた政策を社会に漠然と伝えていけばよいというのではなく、政策の実現を見据えた広報が重要だということで、次の国会で法案を通したいとか、法案を通すにはこの1、2年が勝負ということになりますと、物量作戦で、ありとあらゆる資料を作って、考えられる限りの利害関係者やキーパーソンに持っていきました。広報担当者だけでは間に合わないので、研究に関わった研究者も総動員です。

渡す相手によって資料を変えたり、渡し方を変えたりいろいろ工夫しました。例えば、国会議員に渡す資料はポイントだけを記したものにしてポスティングするとか、記者の方々にはもう少し詳しい資料を用意して、懇談会を開いて直接説明するとか、そんなことです。懇談会の時間も、記者の方々が参加しやすい曜日や時間を素人なりに考えたりもしました。

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