旅行大手HISも参入、「パーム油発電」の危うさ CO2排出は火力並み、FIT制度揺るがす

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また、パーム油生産が一大産業になっているマレーシアやインドネシアの政府は、自らの主導で構築した認証制度をRSPOと同等と見なすように日本政府に強く働きかけている。環境負荷が大きいことから、EU(欧州連合)がパーム油の燃料利用を抑制すべく規制強化を進めている中で、インドネシアやマレーシア政府は代わりとなる新たな市場として日本に大きな期待を寄せている。

パーム油発電の業界団体も「(両政府肝いりの認証制度が)RSPO認証と同等と認められることにより、安定的に事業を運営していけることを期待している」(池田力・バイオマス発電協会常務理事)という。

だが、そうした国家主導の認証制度については、認証取得のハードルが低いうえに、メタンなど温室効果ガスの大量排出につながる泥炭地の開発を禁止していないことなど、「抜け穴の多さ」も指摘されている。仮に認証の基準が緩められると、乱開発した農園からの生産物であっても基準に適合することになり、大量に輸入される道が開かれる。現在、様子を見ているFIT認定を受けたパーム油発電所の建設が一斉に始まる可能性も高い。

温室効果ガスの排出は火力発電所並み

パーム油などのバイオマス燃料は一般に「カーボンニュートラル(炭素中立)」と称されている。植物は大気中の二酸化炭素を吸収・固定するため、仮に発電などに使用しても「入り」と「出」が同じで、温室効果ガスの増大を伴わないという理屈だ。しかし、実際はそうとも言い切れない。

経産省が設置したバイオマス燃料の持続可能性の確認を検討するための専門家会合に提出された資料によれば、パーム油発電(アブラヤシの栽培から、加工、輸送、燃焼に至るライフサイクルベース)で発生する二酸化炭素などの温室効果ガスの量は、LNG(液化天然ガス)コンバインドサイクル火力発電並みと試算されている。

泥炭湿地林を開発して作られたアブラヤシ農園。開発の過程で膨大な量の温室効果ガスが発生(写真提供:Nanang Sujana) 

パーム油の製造過程や運搬に重油などの化石燃料が多く使われるためだ。また、製造工程で発生するメタンガスの処理が不適切な場合、温室効果ガスの排出量は通常のLNG火力のそれを上回る。そればかりでなく、アブラヤシの栽培時に泥炭地の開発を伴う場合には、土地利用の変化がない場合と比べて、温室効果ガスの排出量は139倍にもなると試算されている。

「温室効果ガス排出量の多さ1つを取っても、パーム油発電には重大な問題がある」と、バイオマス利用に詳しい泊みゆき・バイオマス産業社会ネットワーク理事長は指摘する。

そもそもFIT制度は、再エネの利用を通じて温室効果ガスを削減することを目的としている。FIT制度は、電気料金に上乗せして徴収される、私たち電力ユーザーの多額の負担金によって支えられている。

「パーム油を含めたバイオマスの利用については、化石燃料を燃やして発電した場合よりも環境負荷が少ないと言えるのか、定量的なチェックが必要だ」。相川高信・自然エネルギー財団上級研究員はこう指摘する。

8月22日、経産省は有識者による会合を開催し、パーム油利用などバイオマス発電の持続可能性を担保するためのルール案を提示する。議論は大詰めを迎えている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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