フランスで100万部「女の生き辛さ」わかる小説 『三つ編み』が描いた女性の葛藤と強さ

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本作では髪が重要な役割を持っている。髪はとても女性的な存在だとコロンバニ氏は言う。「女性にとって髪を失うことは、男性と同じではないことを、友人を見て感じました。それは女性の美しさと関係しているからです。一方で、髪は力強く抵抗力があって、とても重いものを持ち上げることもできる。私は髪を、女性の象徴として描けたと思っています」。

コロンバニ氏が暮らすフランスは、日本に比べるとずいぶん男女平等が進んでいる。子育てをしながら働くことも容易で、男性がパートナーの出産後に休暇を取得することも当たり前だ。婚外子差別もない。環境を整えた結果、女性が生涯に産む子どもの数、合計特殊出生率は2018年に1.87もある。その国で、フェミニストとして表現するモチベーションはどこにあるのだろうか。

「フランスももちろん、平等とはほど遠いです。例えば映画業界では、監督としても俳優としても、男性と同じ給料を得ることはできません。また、女性に対してたくさんの暴力が行われています。社会のさまざまなレベルで、もっと公正さと平等を得るためにすべきことはたくさんあります。そしてそれは、世界中の女性たちにとっても必要なことです」

娘を産んでから考え方が変わった

コロンバニ氏がフェミニストとして変わるきっかけは、娘を産んだことだった。「以前から女性にとって仕事が何かを考え、書き、話してきましたが、娘を産んでさらによく考えました。娘が20歳、30歳になったときに、母親になったときに、世界はどうなっているだろうか。私が女性差別についてもっと行動を起こし、語るようになったのは、将来女性に対してより公正で、暴力が少ない社会になっていてほしい、と望むからです」。

しかしコロンバニ氏は、女性差別と闘うことは男性と戦うことではないと話す。

「フェミニズムは、人道主義だと考えています。男女は、同じ人間である女性が置かれている環境をよくするために、共に働くべきです。私はとても平和的な方法でフェミニズム小説を書きました。例えばジュリアは、女性が男性と同等の存在だと認めるシク教徒のカマルを、パートナーとして得る。彼はフェミニストになれる。そして、誰でもフェミニストになれるのです。なぜなら、男性にも母親がいて、娘を得ることもある。姉妹がいる場合もある。それが何を意味するかわかりますか? 

誰もがフェミニストになりえるのです。実際、多くの男性が私のところへ来て『僕はこの本を読んで、妻のためにフェミニストになりました』『女性がこんなに苦労しているとは想像できなかった。世界は変わるべき時が来ている』などと言ってくれます。また、中国の男性がこんなふうに言いました。『あなたが、フェミニストは人道主義者だと言うことがわかりました。そして、僕たちは公正を求める戦いに参加すべきなのです』」

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