フランスで100万部「女の生き辛さ」わかる小説 『三つ編み』が描いた女性の葛藤と強さ

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サラについては、着想の元になった女性がいた。親友ががんを患い、寄り添った際に女性が置かれる立場の厳しさを考えさせられたことが、コロンバニ氏が本作を構想するきっかけになっている。もちろん、サラの造形には、周囲のたくさんの女性たちのイメージが投影されており、友人だけがモデルではない。

カナダはフランスと似て、女性がキャリアを積みやすい環境にある。また、がんに対するイメージも持っていたので、サラの造形もそれほど難しくなかったという。世界経済フォーラムが発表した2018年のジェンダーギャップ指数では、フランスが12位、カナダは16位である(イタリアは70位、インドは108位)。

こうした中、病に冒されたサラが職場で直面する”差別”は女性特有のものと言い切れない。これに対してコロンバニ氏はこう話す。「男性と女性では肩にかかっている重荷の数が違う。男性は仕事にだけ注力でき、周りもそこだけで判断します。しかし、女性は家族の面倒までみなければなりません。社会で生き抜くのは、男性より難しいと思います」。

シチリアのパートは3回書き直した

実はいちばん造形が難しかったのは、シチリアのジュリアだった。

「スミタはあまりにも境遇が異なるがゆえに、最初にイメージでき、まずスミタの物語から書き始めました。彼女は私と同じ母親であり、私はインドの女性についてたくさんの情報を得ていました。サラは、友人からインスピレーションを得ていますし、私はたくさんのがんになった人を知っている。だからやはりイメージははっきりしていました。

しかし、ジュリアは若い。私はシチリアのパートを3回も書き直しました。そしてついに、(恋人の)カマルが登場したのです。最初のうち、カマルは物語に入っていませんでした。しかし、『そうだわ。ジュリアは若い女性なのだから、男性と恋をする』と気がついたのです」

コロンバニ氏は3人の女性に異なる役割を与え、女性の多様性を表現すると同時に、女性が受ける差別が何通りもあることを浮き彫りにした。ジュリアは若い女性で恋をする。スミタは若い母親。サラは社会的立場を持ち、敬服するほど強い女性。「異なる年齢、社会的地位、異なる形の家族、信念。彼女たちはそれぞれ、私の異なる一部分だと考えています。私も母親であり社会的な立場を持つ女性で、以前は若い女性でした」。

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