医者が「莫大な謝礼」を製薬会社から貰える理由 数十万円は当たり前、1人で年1000万円超も

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日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン2018年版」では、作成委員145人のうち112人へ謝礼金等の支払いがあり、その総額は1億4561万円だった。1人当たりの平均は100万円。

日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン2018年版」では、18人すべての委員に支払いがあり、総額は5251万円。平均では291万円だった。大腸癌研究会の「大腸癌治療ガイドライン2019年版」では、25人の委員のうち21人に支払いがあり、総額は4818万円。平均では192万円だった。

いずれの委員も大学教授や病院の副院長、部長クラスが多い。中には1人年間1000万円を超える委員もおり、最も多かった委員では1740万円の支払いがあった。

各学会は日本医学会の「COI(利益相反)管理ガイドライン」に準ずる形で規定を設けており、謝礼金については1つの企業から年間50万円以上の支払額があれば学会に自己申告することになっている。日本医学会は2017年、診療ガイドライン策定への参加資格基準を示しており、企業との利害関係が「社会的に容認される範囲を超えていると判断される」場合は、ガイドラインの作成に参加させるべきではないとした。

ガイドライン作成委員会の委員長は、1つの企業から支払われる年間の謝礼金が100万円未満、委員は200万円未満が基準だ。ただ、この日本医学会の規定は学会への強制力はない。

「製薬企業から謝礼金が支払われることで公平性が損なわれないか」という『週刊東洋経済』の質問に対し日本胃癌学会は、「科学的なエビデンスに基づいて合議制で検討しており、企業の影響はない」と答えたうえで、次の改定では日本医学会の規定に準じるとした。

「社会から誤解を招いたのは遺憾」

「今回のような指摘を受けたことについては、社会から誤解を招き、信頼性を損なう可能性があるという意味において遺憾であり、今後改善すべきであると考える」(日本胃癌学会)。「委員が謝礼金を受けた企業名と支払額を学会が取りまとめて公開する考えはあるか」という質問に対しては、「6月に行われる理事会で真摯に検討する。次のガイドラインについては公表するのが時流と考えその方法を検討する」と回答している。

大腸癌研究会の理事長は、「特定の企業からの偏った金額ではなく、ガイドラインの中身がゆがめられる懸念はない。学会の規定に基づいて自己申告はしているが、委員の選出に当たって改めて確認はしていない。社会的な関心が高まり要求があれば公表も検討する」と答えた。

日本肺癌学会の理事長は、「公平性については利益相反委員会などの体制を整備し問題はない。委員長などには利益相反基準を設けるよう規定の改訂を進めている。企業名や支払い金額は公開する方向で検討している」との回答だった。

日本の医療は多くが公的保険で賄われるため、患者は自分の財布から多額の薬代が出ているという意識が薄い。だが、薬を含む医療費を担うのは国民のお金だ。薬をめぐる金銭の動きは患者から「見えるおカネ」になることが急がれる。

『週刊東洋経済』6月1日号(5月27日発売)の特集は「クスリの大罪」です。
井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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