デジタル投資に沈む地方テレビ局--景気失速も追い打ち、北海道5局体制の黄昏

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2匹目のドジョウ狙い放送外収入増に注力

「デジタル対応投資の減価償却費負担は今期から来期にかけてピークを迎える」(溝口氏)。となれば当面、地デジ負担が利益を圧迫し続けるのは避けられそうにない。

さらに、償却負担一巡後の回復シナリオまで修正を迫られている。景気冷え込みにより、すっかり経済活動が沈滞しているのだ。「地元企業の士気が低下している」と、北海道の広告代理店幹部は出稿意欲の減退を懸念する。

「社内で経費削減の方策を話し合うための委員会を発足させた」「カメラマンとの契約を更新せずに打ち切った」--。民放各局から漏れてくる声は、収益環境悪化が深刻であることを如実に物語っている。「右肩上がりを謳歌できた時代は終わった」。幹部はこれまでの経営に対する自戒の念も込めて話す。

本業の広告収入不振に直面する各社はこぞって放送外事業の強化に注力している。そのお手本ともいうべき存在が、前3月期に道内民放で唯一、営業黒字を計上したHTBだ。

HTBが営業黒字をキープした秘密は、ヒット番組「水曜どうでしょう」のDVDなどの売り上げだ。「水曜」はローカルの深夜帯では異例の高視聴率をたたき出し、出演していた俳優の大泉洋さんがスターダムを駆け上るきっかけにもなった番組。02年にレギュラー放送は終了したが、DVDの人気は今も衰えていない。

HTBによれば、前3月期の放送外収入は約20億円あまり。全体の売り上げに占める割合は約15%とキー局並みの水準に達する。二次利用のDVDは償却済みで利益貢献も極めて大きい。ライバル局も番組を再編集したDVD販売などを積極化させているが、「2匹目のドジョウ」はそう簡単に見つからない。

高視聴率の日ハム戦だが放映権等回収できず赤字

「地方の民放局は地元が元気にならなければ成り立たない」(HBCの溝口氏)。“本業”の立て直しで各局が目指すのは「原点回帰」。北海道日本ハムファイターズの試合中継に注力するのもその表れだ。

スポーツ番組はもともと人気が高い。08年放映のテレビ番組で最高視聴率を記録したのはNHKの「紅白歌合戦」だったが、道内に限ると、地元出身の内藤大助選手が王座を防衛した12月のプロボクシングWBC世界フライ級タイトルマッチの視聴率が「紅白」を上回ったという。

日ハム戦中継も高視聴率を維持しているが、実は“両刃の剣”の側面を持つ。「番組のスポンサー枠を全部売り切ったとしても、放映権料の支払いと制作費分を回収できない」と地元民放幹部は苦しい台所事情を明かす。だが、「今後の球団との関係を考えれば、赤字覚悟で続けざるをえない」(同幹部)。

北海道では「キラーコンテンツ」のウインタースポーツも、他地域では状況が異なる。その一例がスキーのジャンプ。北海道では2ケタの視聴率を上げるが、首都圏では1ケタ台前半と苦戦ぎみだ。「全国ネットでは勘弁してください」というのがキー局の本音だろう。ローカル放映に「格下げ」されれば当然、広告収入減につながる。

「情報の中央集権化」(キー局幹部)の流れも気掛かり。集権化とは「地方の人が東京発の情報を欲する傾向を強めている」という見方だ。これに対して、地方局からは必ず「キー局よりもコンテンツ力が劣っているわけではない」といった反論の声が上がる。

ただ、地方局の自社制作比率は低く、オリジナルコンテンツで差別化できる放送枠は限られているのが現状。しかも、全国各地からネットなどを通じてキー局が発信する情報へのアクセスが容易になった。「地元の情報は大事だが、キー局と同数の民放が北海道に必要なのか」(前出の広告代理店幹部)との問いにどう答えるのか。広告市場の急激な縮小は地元民放各局に大胆な発想の転換を催促している。

(週刊東洋経済)

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