「ボヘミアン・ラプソディ」韓国大人気の背景 配給会社は1000万人動員にむけイベント企画

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韓国人はもともと、音楽や盛り上がるダンスが大好きだ。韓国の民族舞踊にもあるように庶民の生活と深く関連していて、「カンガンスルレ」や「タルチュム」と呼ばれる民族舞踊は、観客も掛け声や歌などで一緒に参加するスタイルで、観客が演技者と一体化する。韓国のバラエティー番組を見ていると観客が出演者と踊りだしたり一体となって楽しむ場面をよく目にする。また、映画『サニー』『過速スキャンダル』のように音楽で盛り上がるシーンのある映画がヒットするのも国民性を見ればうなずける。そういった点で、『ボヘミアン・ラプソディ』は盛り上がるライブシーンが多く、韓国人がハマりやすいタイプの映画だったといえる。

しかし、ここにきて『ボヘミアン・ラプソディ』の観客動員が足踏み状態になっている。それというのも上映館が減ってきているのだ。また、1月29日からは劇場公開版にはなかったライブエイドのフルバージョンを収録したVODサービスが開始されるのに加え、2月4日から始まる旧正月に合わせて、家族で楽しめる韓国映画や洋画の大作が続々と公開される予定だ。

さらに追い打ちをかけるようにブライアン・シンガー監督による未成年へのセクハラ疑惑も発覚した。MeToo運動が日本より大きく取り上げられ、デモや報道などでも盛り上がった韓国だけに、ここにきてのセクハラ報道は観客動員に大きく影響するだろう。果たして、これから先、1000万人超えを達成できるのか注目が集まっている。

『ボヘミアン・ラプソディ』の韓国配給会社である20世紀フォックスコリアは、何とか1000万動員映画にするため、様ざまなイベントを企画しだした。チケット価格を7000ウォン(約700円)に値下げし、さらにチケット1枚買うともう1枚プレゼントする1+1サービス。さらには、一般的に封切り時にだけ行われることが多い「オリジナルポスターのプレゼント」まで。ここまでくると、配給会社は興行収入は二の次で、何としてでも1000万人動員を突破させたいという意気込みが感じられる。また2月には本場イギリスからクイーンのトリビュートバンド「ラプソディ・クイーン」が、ソウル・釜山・光州の3か所ツアーで初の韓国公演をすることが決まっている。

ザ・ショー・マスト・ゴー・オン

果たして、『ボヘミアン・ラプソディ』は韓国で1000万人動員の壁を破れるかどうか。1月26日以降、興行ランキングのトップ10から脱落した現状では厳しいというのが正直なところだが、だがこのヒットはこれで止まるわけではない。『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを受けて、音楽映画の公開が決まっている。ライブを感じとれる作品としてはBTS(防弾少年団)のソウル公演を収録した『LOVE YOURSELF IN SEOUL』が1月26日公開された。これは韓国のみならずアメリカやフランスなど96か国での公開が決定している。韓国ではコンサートさながらに応援グッズを手にしたファンを中心に観客が映画館へ足を運んでいる。また、5月31日公開のエルトン・ジョンの半生を描いた『The Rocket Man』も『ボヘミアン・ラプソディ』級のヒットを狙えるのではないかと注目を集めている。

『ボヘミアン・ラプソディ』が仮に1000万人突破を果たせなくても、この作品はたくさんの観客が映画館という空間を共有しながら一緒に楽しむという映画の楽しみ方を再確認させてくれた。そのことだけでも、大きな意義ある役割を果たしたといえるのではないだろうか?

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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