「フランス第2の都市」と日本の意外な深い縁 リヨンが日本に猛アピールする理由

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リヨンの強みは産業の大規模な集積だけでない。企業誘致担当者らが口をそろえるのは「生活の質の高さ」だ。イギリスの調査機関が2017年に発表した「世界で最も住みやすい都市ランキング」ではパリを上回り、フランスの都市で1位になった。「購買力が高いうえ、学校、レストラン、ショッピングエリアなども整っている」(「メトロポール・ドゥ・リヨン」のソーズ氏)。レストランは約4000軒。このうち、15がミシュランの星付きである。

「リヨンへ進出を検討している海外企業の担当者と話すと、パリよりも不動産の値段も安いとの声を聞く」(ソーズ氏)。パリと異なり交通渋滞が少なく、治安もさほど悪くない。しかも、「地の利」がある。パリからは高速列車の「TGV」で約2時間。アルプス山脈のスキー場ならば2時間足らずで着く。

ADERLYのフォディス氏は「パリよりもビジネスの面では劣っているかもしれないが、プライベートの質の高さでは負けない」などと強調する。日本の都市に例えるならば、パリが東京であり、リヨンは姉妹都市でもある横浜という位置づけだろうか。

「強み」が弱点になる可能性も

冒頭の光のフェスティバル開催中の8日にはリヨンでも政府に抗議するデモは起きたが、フランスのほかの主要都市と異なり小規模にとどまった。これをめぐって地元では「生活の質の高さが背景にある」との受け止め方が少なくなかった。フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、2018年7~9月のリヨンの失業率は8.2%。フランス本土全体の8.8%を下回っている。

もっとも、リヨンの優位な点である多様性には諸刃の剣の側面もありそうだ。欧州の大手航空機メーカーのエアバスが本社を置くトゥールーズ、ワインで世界的に有名なボルドーなどが海外でPRしようとすれば訴求のポイントを絞りやすいが、リヨンのように強みが多すぎるとかえって焦点がぼやけてしまいかねない。

このため、今後は注力する産業の取捨選択を迫られる可能性もあるだろう。例えば、デジタル産業。フランスではリヨン以外にもパリ、リール、ナントなど同産業を振興の目玉に据える都市が目立っており、差別化の切り札にはなりにくい。

「非効率ではないか」との問いに、ADERLYのフォディス氏は「(フランス政府が推進するIT企業を中心にしたスタートアップ支援のブランド戦略である)“フレンチテック”の取り組みはポジティブだが、デジタル産業の強化に関しては将来、いくつかの都市に集中させる必要があるだろう」と語る。

PR関連の予算を「B to B」のビジネスではバイオテクノロジーの領域へ傾斜配分する一方、一般消費者向けでは「美食の街」の知名度アップへ重点的に振り向ける。こうした戦略の再構築が「ポスト・パリ」の座を揺るぎないものにするためのカギだ。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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