米国FRB「パウエルプット」が招く市場の混乱 2009年以降の流動性相場は終わりに近づく

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もうひとつの問題は、市場とのコミュニケーションの混乱による不確実性の高まりだ。野村証券の中島武信・シニア金利ストラテジストは「利上げを見送った後、再開時期をめぐって市場に波乱が生じるだろう」と話す。また、「QTについてはかつて経験がないため、FRBはさまざまなシミュレーションを行って、一定のペースで落としていくことを決めた。これまでは、自動的に削減していく方針は変えないとしていたのに、分析もしていない状態で見直す可能性に言及したことで、不確実性を生んでしまった」と指摘する。

パウエル議長は今年からはFOMC(米連邦公開市場委員会)のたびに会見を行うことになっているが、不安定な市場に迎合する発言を行うことで、市場のボラティリティ(変動性)をさらに高めてしまう可能性がある。いったん市場に優しい発言をすると、今後もたびたび催促されるだろう。他方で、たとえば、FRBの姿勢が実際に柔軟化したとして、金融市場の安定につながるかどうかは疑問がある。市場もそのように懸念しているからこそ、株価やドル円の戻りも限定的なのだろう。

終わりを告げる流動性相場

足元で米政府機関の一部閉鎖状態が続いていることや、米中貿易摩擦による経済への悪影響、英国のEU(欧州連合)離脱交渉が暗礁に乗り上げていることなど、3月までは不安材料が山積みだ。しかし、根本的な問題はやはり、先行きの景気への懸念だろう。2000年以降の米国の景気は、長いスパンで見ると、株価をはじめとする資産価格の上昇に依存している部分が大きく、これまでも大きな循環は資産価格の変動によってもたらされてきた。そう考えると、景気の減速にとどまらず、リセッション(景気後退)に入る可能性はやはり高いのではないか。

QTのペースを多少落とすことができたとしても、FRBによる量的緩和から量的引き締めへの転換という大きな流れを覆すことは難しい。中国の金融緩和や財政出動も中国の景気減速のペースを緩めるのがせいぜいであろう。成長軌道を大きく高めることや、まして、かつてのように世界経済を支えるほどの効果は期待できない。

パウエルプットによって、株価は何度か息を吹き返すかもしれないが、むしろ乱高下を招くだけではないか。高値と2009年以降続いてきた流動性相場の終わりは避けられないだろう。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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