田中圭の「ダメ男」が圧倒的に支持される理由 男女から愛される「今年最大のブレイク俳優」

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過去の恋愛に悲哀を抱える男の役では、他のイケメン俳優との差別化ができず、持ち味が活かされなかったのである。

サンドバックか他山の石か

「ちょっぴりクズ」というのは、言い換えれば「日本全国どこにでもいる男」でもある。周囲からは「素敵な男性」「優しい恋人」「いい夫」と思われていても、女からは「こういうところがイラっとする」と思われている部分が必ずある。悪気なく、無意識に女の地雷を踏んだりもする。

それを集約あるいは濃縮還元して演じる田中圭は、女性たちの「代理サンドバッグ」になっているのではないか。「そこな!男のダメなところは」となじりながら、日々の憂さを晴らす格好のサンドバッグである。

だからといって、毛嫌いされないのも田中圭ならでは。どうにもこうにも憎めず、「人間ってそうそう変わらないよなぁ」と思わせる。「つまずいたっていいじゃないか にんげんだもの」「みんなちがって、みんないい」という言葉が浮かぶ。あいだみつをと金子みすゞのハイブリッド状態に陥り、寛容にならざるをえない。この世に完璧な男性などいないのだと痛感し、過剰な期待もしなくなる。女性たちはなんだか憎めない田中圭を見ていると、自分が寛大な大人の女になった気がするのだ(錯覚だけど)。

一方、男性はどう見ているのか。努力と鍛錬をしないと保てないレベルの大胸筋や上腕二頭筋に、敬意を抱くかもしれない。バラエティ番組やトーク番組で見せる無邪気さと底抜けの明るさに、親近感や優越感を覚えるかもしれない。ドラマの中で田中圭が演じる男の言動に、女性たちがいちいち熱く反応するのを見て、「え、今の何がダメなの?」と疑問に思うかもしれない。そして、どこに落ち度があるのか、自分も同じような発言をしていないか、地雷を踏んでいないか、と戦々恐々とする。自分では気づいていない「男の狡さ・幼さ・無神経」を、田中圭が身をもって教えてくれるのだ。男性にとっては、まさに他山の石。それが田中圭である。

朝ドラも大河ドラマもすでに出演し、ローカル局やBS、ネットでは主演作も多数ある。この後、どう消費されていくのか。中途半端に正統派二枚目を演じるよりも、できればこのままちょっぴりクズを体現し続けてほしい。来年も心に残るクズを、それも歴史に残るクズを演じてほしいと願っている。

吉田 潮 コラムニスト・イラストレーター

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よしだ うしお / Ushio Yoshida

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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