社会で大切なことは「無条件の愛」の学習だ 共同体メカニズムをどう政策に導入すべきか

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無条件の愛の純粋な動機で行為をすべき、という義務論の考えは崇高なものであるが、あまりに理想的であり現実の日本の政治状況で実現可能な政策の提案にはあまり有益ではないだろう。そこで、無条件の愛は理想として、「無条件の愛の学習」を善しとする原理が考えられる。

この原理は徳を獲得していくことによって無条件の愛の学習が進むことを善しとし、学習に無理が出ないように、効用(生活上の満足度)が低くなりすぎないことも重視する。このように無条件の愛の学習の原理は、効用に基づいた帰結主義と、徳倫理のバランスをとりつつ、義務論の理想を追求しているという意味で、3大アプローチを統合する。

「無条件の愛」の学習の実践法

どのように無条件の愛を学習していくか、具体例を考えてみたい。私のアメリカ・テキサス州出身の白人の友人は、無条件の愛を理想として奥さんと子供たちの家族共同体を大切にして生きている。しかし、あるとき自分は黒人に対して知らないうちに偏見を持っている、と気づいたそうである。

そこで彼は黒人の子供たちを養子にして、大切に育てることで偏見を克服した。これは徳倫理からみて、家族や白人の共同体の内の利他性から、もっと広い共同体に利他性を広げていくよい方法である。

遠いアフリカで子供たちが貧困で苦しんでいるときに、自分の子供たちに対すると同じように深い利他性を持つことは、とても自分には難しい。純粋な徳倫理の観点からは、私が友人に倣ってアフリカの子供たちを養子にして育てることは、よい方法である。

しかし、私は現在の自分の状態を冷静にみるなら、この方法ではおそらく自分の効用があまりに下がってしまい、無理が生じるように感じる。つまり自分はまだ無条件の愛からは遠いところにいるので、効用があまりに下がらないようにしながら、あせらずに外国人を含むもっと広い共同体に利他性を広げていくのがよいように感じる。

大垣 昌夫 慶應義塾大学経済学部教授

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おおがき まさお / Masao Ogaki

1958年生まれ。大阪大学卒業。アメリカ・シカゴ大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。アメリカ・ロチェスター大学助教授、アメリカ・オハイオ州立大学教授等を経て、2009年から現職。2015年から2017年まで行動経済学会会長。著書に『行動経済学ー伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して』2014年(有斐閣、共著)など。学術論文をThe American Economic Review, Econometrica, International Economic Review, The Japanese Economic Review, Journal of Political Economy, The Review of Economic Studiesなどに多数発表。

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