リニア新幹線、工事順調でも残る「最大難所」 品川近くの建設は進むが、静岡は今も協議中

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南アルプストンネルは大井川源流域の地下を通過するため、トンネル工事に際して湧き水が生じ、それによって大井川の水量が減少する懸念がある。県は「大井川は水需要に対して水資源が不足気味の河川で、降雨が少ないと渇水状態になる」としており、過去25年のうち16年で取水制限を行っている。工事に伴う水量減少は取水する沿線自治体にとって死活問題になりかねない。

この点はJR東海も配慮しており、当初、「トンネル工事による河川流量の減少分を大井川に戻す」と提案した。しかし、県側はトンネル湧き水の全量を大井川水系に戻すよう主張。両者の間には意見の隔たりがあった。

11月21日に静岡県庁で開かれた県中央新幹線環境保全連絡会議で、JR東海は河川流量の対策を説明した(写真:共同通信)

その後、JR東海は県に歩み寄り、「ポンプアップ等を用いて全量を大井川に戻す」という姿勢に転じた。現在は「全量戻し」を前提にその方法や戻す水の状態について協議が重ねられている。

計画では南アルプストンネルは山梨工区が2025年10月末まで、長野・静岡両工区は2026年11月末までに完成させることになっている。山梨工区は2015年12月、長野工区は2016年11月に着工しており、静岡工区も早急に着工したいところだ。

2027年の開業目標は守れるか

JR東海の金子慎社長は「スケジュールはタイト」と言う。だが、2026年11月末に予定どおりトンネルが完成しても、ガイドウェーなどトンネル内への機器設置や試運転を考えると、2027年の早い時期に開業にこぎつけるのは考えにくい。試運転には相応の時間がかかるだろうから2027年の年末になってもおかしくない。確かにぎりぎりだ。

リニア中央新幹線の営業車両「L0系」(記者撮影)

従って、トンネル工事が遅れれば、当然のことながら、2027年という開業時期は怪しくなる。とはいえ、「まず健全経営と安定配当があって、そのうえでリニアに全力投球する」というのがJR 東海の方針。何が何でもリニア工事を最優先するわけではない。つまり、工事の遅れだけでなく、景気後退による業績悪化や自然災害への対応など不測の事態が起きた場合は、開業時期が2028年以降にずれこむ可能性もあるわけだ。。

2025年の大阪万博開催が決まったが、2020年の東京五輪後のビックイベントがリニア開業であることに異論を挟む余地はない。2027年を見据え、名古屋では大規模な駅周辺の再開発計画が進んでいる。品川駅も駅改良工事や駅ビル開発などの計画がある。

その2027年に肝心なリニアが走っていないのでは画竜点睛を欠く格好になるが、安全面をおろそかにしたり、作業のクオリティーを下げたりしてまで2027年にこだわるという選択肢はJR東海にはないはずだ。2028年以降の開業という可能性も頭の片隅に入れておくほうがよいだろう。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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