リニア新幹線、工事順調でも残る「最大難所」 品川近くの建設は進むが、静岡は今も協議中

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地表から地下深くまでエレベーターで降りた。ぽっかりと空いた円形の穴から青空が見える。外壁には「0」「180」という数字が書かれており、0は品川方面、180は名古屋方面である。

リニア中央新幹線の非常口の地下深くからの眺め。10メートル単位で深さが表示されている(撮影:尾形文繁)

今後掘り進めるトンネルは品川方面から名古屋方面に向って下っていく。斜度は40パーミル。1km進むごとに40mの高低差が生じる。東海道新幹線1編成を例にとれば、先頭と最後尾で16mの高低差が生じる計算だ。新幹線で最も急勾配とされる九州新幹線でも35パーミル。鉄輪の斜度の限界を超えられる理由は、磁気を利用して動くリニアだからこそだ。

都市部の非常口の数は首都圏で9カ所、中京圏で4カ所。現在のところ2016年7月に工事がスタートした北品川の建設が最も先行している。ほかの非常口も完成次第、そこを起点にシールドマシンによるトンネル掘削が始まる。

リニア中央新幹線の非常口の地下には、今後トンネル掘削用のシールドマシンが運び込まれる(撮影:尾形文繁)

同じ大深度を走る都営地下鉄・大江戸線のトンネルの直径は5.3m。一方で、リニアが走るトンネルの直径はその3倍近い約14mある。断面積が大きくなると工事は難しくなるのだろうか。この疑問に対し、吉岡部長は「大江戸線よりは大きいが、道路用のトンネルにはこれくらいの直径のものはある」と言う。たとえば、東京外環プロジェクトで建設中の片側3車線のトンネルは直径約16m。確かに道路用トンネルに近い。「これまでと同様、安全に掘れる工法だ」(吉岡部長)。

静岡はまだ本格着工に至らず

非常口建設作業は順調に滑り出した。では、品川―名古屋間におけるほかの区間はどうか。

リニア中央新幹線のルート。静岡県内の区間はわずか10kmで駅も設置されない(撮影:尾形文繁)

リニアの停車駅は品川、名古屋のほかに神奈川、山梨、長野、岐阜の各県にも設置される。一方、静岡県はルート上にあるにもかかわらず、駅が設置されない。静岡県内の区間はわずか10km程度にすぎず、しかも山岳地帯である県北部をかすめるように走るため、周囲に集落はない。駅を設置しても利用者はいない。

リニア工事の最大の難所とされるのが、山梨、静岡、長野にまたがる南アルプストンネルである。標高3000m級の山々をくぐり抜けるため土圧が高く、地中に何が眠っているかもわからない。そのため、山梨工区と長野工区ではいち早く本坑工事がスタート。しかし、静岡工区はまだ着工に至らず、9月に作業員宿舎の建設がようやく始まったにすぎない。静岡県では大井川の流量減少問題をめぐり、JR東海と県、自治体との間で対立が続いており、県が着工について了承していないためだ。

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