M-1の審査にケチをつけたがる人への違和感 準優勝でも「和牛」が圧倒的にすごいワケ
今回、優勝を果たしたのは霜降り明星ですが、優勝を逃した9組も実力では全く見劣りしません。『M-1』は番組の形式上、コンテストの形をとっていますが、10種類のハイクオリティな漫才が楽しめるお笑い番組として見るのがちょうどいいのではないかと思います。
敗れた9組の中でも特筆すべきは、準優勝の和牛です。彼らは最終決戦でわずか1票差で霜降り明星に敗れ、優勝を逃してしまいました。和牛はこれで2016年から3年連続で準優勝ということになります。
年々レベルが上がっている『M-1』で「3年連続準優勝」というのは、実質的には「優勝」と同じかそれ以上に価値のあることだと思います。その実績が示しているとおり、和牛が披露した2本の漫才はどこからどう見ても文句のつけようがない傑作でした。
過去の自分たちを超え続ける「和牛」
彼らが1本目に披露したのは「ゾンビ」をテーマにした漫才。ボケ役の水田信二さんがツッコミ役の川西賢志郎さんに対して「ゾンビに噛まれて感染したら俺のことをちゃんと殺してくれるか不安だ」と非現実的な心配事を口にして、そこから2人の掛け合いが始まります。「どういう状態になったら殺してもいいのか」ということに関して主張が対立して、議論が白熱していきます。そして、見る者の想像を超える意外な結末へとなだれ込んでいきます。クールな水田さんと、人の良さそうな川西さんのキャラクターの違いを生かしたネタです。
2本目に披露したのは「オレオレ詐欺」をテーマにした漫才。自分の親がオレオレ詐欺に引っかからないように、水田さんが自ら母親に電話をかけてオレオレ詐欺を仕掛ける、というものです。子供が実の親にオレオレ詐欺をはたらくというのは現実的にはありえない設定ですが、偏屈なキャラクターの水田さんが堂々とした態度でそれをリアルに演じています。
どちらの漫才にも共通しているのは、ネタの構成力が圧倒的に優れているということです。導入で「どんな展開になるんだろう?」と興味を引きつけておいて、終盤で意外なオチを用意しています。
そして、その上質なネタを演じる2人の話し方や芝居の技術も卓越しています。2本目のネタの結末部分で、2人が何も言わずに向き合ってにらみ合う場面では、言葉を使わずにその演技だけで大きな笑いを起こしています。これは名人級のテクニックがなければ不可能です。
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