ところで小田原駅といえば、小田原駅―箱根湯本駅区間を特急料金200円でロマンスカーに乗れるのはご存じだろうか。もちろんそれ以外に乗車券も必要だが、この区間のみなら、憧れの展望席に乗車できる可能性が大いにある。当日に限るが、ロマンスカーが満席でない場合、特急券を買って、空いている好きな座席に座ることができるのだ。
ホームには特急券を売る駅係員さんがつねにいる。その方に声をかけて紙の特急券を買い、展望席のいちばん前に座って箱根湯本までの20分間を楽しむ……なんてことを特にLSEの展望席でよくやった。前展望が難しそうなときは、後ろ展望がおすすめだ。
話は1カ月前のビール列車にさかのぼる。ビール列車の時はこの小田原駅で解散だった。LSEが回送となり見送ったあと、箱根に行こうか迷い、近くにいた駅係員の方に特急券があるのか聞こうとすると、振り向いたその手には花束があった。駅係員の名前は勝島伸佳さん。勝島さんは長年、小田急電鉄で運転士として働き、定年後は箱根登山鉄道で特急券販売の仕事などをしていた。
「今日が最後の勤務」
「実は今日が私の最後の勤務日なんですよ」
なんと今日は、偶然にも勝島さんの引退の日でもあった。てっきりLSEのラストランツアーに合わせてのことかと思ったが、それについてはまったく知らなかったそう。「勤務日最後に見ることができてよかった」と話していた。
そして勝島さんが大事そうに取り出し見せてくれたのは、かつて運転士をしていた時代の写真。3100形のNSE車前で、若かりし頃の勝島さんを取り囲む制服を着た女子高生たち。どうやら修学旅行生と一緒に写した写真のようだ。
「ハンサムですね。さぞかしモテたのではないですか?」と聞くと、「ははは」と笑いながら写真をしまった。
そこへ女性駅員さんが「お疲れさまでした」と言いながらプレゼントを渡しにきた。ロマンスカーに乗務しているアテンダントの女性も停車中に勝島さんに声をかける。どうやらいまだに女性に人気らしい。
それをニコニコと見ている、笑顔のかわいい女の子がそばに立っていた。聞くと勝島さんのお孫さんだという。お祖父さんの最後の勤務姿を見に来たとのこと。
その人気ぶりと最後の勤務の姿にLSEが重なって、胸が熱くなる。「まだまだお元気と思いますが……引退されるのですか?」と聞くと、「もう十分働きましたよ」と答えが返ってきた。
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