「こんな夜更けにバナナかよ」に学ぶ頼る力

実在障害者が教えた「堂々と人に頼る生き方」

特徴的なのは、そんな現状に負い目を感じることがない鹿野の姿だ。「動けないんだから、他人に迷惑をかけて何が悪い?」とばかりに、ボランティアに対してはわがままし放題。夜中にバナナが食べたくなったら「バナナが食べたい。買ってきて」と平気で要求する。確かに身体は不自由だが、言いたいことをズバズバ言いまくっている鹿野の心はとても自由といえるだろう。

わがまま放題な姿を目の当たりにし、ついには「鹿野さんは何様? 障害者ってそんなに偉いの?」と怒りをぶつける美咲(高畑充希、左) ©2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

大勢のボランティアに囲まれ、まるで王様のように振る舞う。365日24時間、食事の時も、排泄の時も、入浴の時も四六時中誰かがそばにいて、ひとりになるということがない生活。プライバシーなんてものは何もなく、すべてをさらけ出さないと生きていけない。結局、そんな鹿野のことが、ボランティアのみんなも大好きなのだ。それゆえに鹿野を中心とした、ファミリーのような共同体が形成されていく。

だが、そんなわがままが時には行き過ぎることもある。

鹿野のボランティアに入れ込むあまり、デートの時間を作ることもままならない恋人・田中(三浦春馬)の様子を偵察しに来た美咲(高畑充希)は、鹿野の住まいを訪問。だが鹿野のペースに巻き込まれ、なしくずし的にボランティアとして参加させられることになってしまう。

そこで彼のわがまま放題な姿を目の当たりにし、ついには「鹿野さんは何様? 障害者ってそんなに偉いの?」と怒りをぶつけてしまう。しかし、鹿野はほれっぽい男で、全力でぶつかる美咲に、逆にほれ込んでしまった。そしてこともあろうに、美咲の恋人である田中に、美咲宛のラブレターを代筆するよう命じる。美咲が恋人であることを言い出せない田中は、しぶしぶそのラブレターを代筆してしまう――。そんな悲喜劇が入り交じったエピソードの数々は、軽やかな味わいを感じさせてくれる。

あえて「わがままに生きる」

口が達者で、飄々(ひょうひょう)としていて、それでいて憎めない鹿野の喜劇的要素は、演じた大泉洋によるところも大きい。役作りとして、鹿野さんが愛用していた分厚いメガネをかけて、その下にわざと視力を落とすためにコンタクトレンズを装着。そして劇中でやつれていく姿を表現するために、ロケ中も食事制限と走り込みを行い、最大で10キロを落としたという。

それゆえにクランクアップの際には「鹿野でなくなるのがさみしい。週末だけ僕が鹿野さんになるので、みんなに集まってもらいたい」と語るほどだった。そして「こんなにいろいろ考えさせられた作品はなかった。いちばんシフトチェンジしたのは、迷惑をかけるのはそんなにダメ?ということ。これからは子どもに『できないことは人に頼りなさい』と教えようと思う。そして頼られたときに応えられる人でありたいと思う」と語る。

鹿野靖明を演じた大泉洋は「子どもに『できないことは人に頼りなさい』と教えようと思う。そして頼られた時に応えられる人でありたい」と語ったという ©2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

この作品では、車いす生活を送る鹿野の哲学はもちろんのこと、その周囲に集まってくるボランティアにまつわるエピソードも随所に盛り込まれている。

そのひとつとして、ボランティアを辞めると伝えた青年が、その理由を「だって鹿野さんって楽しそうじゃないですか」と語るひと幕がある。障害者だから”助けてあげたい”のに、楽しそうだから拍子抜けしてまったのだと。

健常者、障害者に限らず、他人同士がわかり合うのは本当に難しいことだ。だからこそ鹿野はしゃべり続け、わがままを言い続けるのかもしれない。劇中でも、そんな鹿野の生き方が、少しずつ周りの人たちに影響を与えていく。

「自己責任」という言葉が飛び交い、“不寛容”が世の中を覆い尽くしている現代。そんな中、“他人に頼む”ことがはばかられるようになってきている。だから、誰にも迷惑をかけたくないと、自分ひとりで抱え込んでしまい、頑張りすぎてしまい、パンクしてしまう――。それとは反対に「迷惑をかけちゃえばいい」「人に頼ればいい」という鹿野の生きざまは、迷惑をかけまいと頑張りすぎている現代人にはまぶしく映るかもしれない。

(文中敬称略)

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