殺処分ゼロに必要なのは愛でなくシステムだ 保護猫を救う新事業に密着
山本さんらの団体で保護・飼育できるのは最大450頭。常時300頭以上が大塚のほか、2か所のシェルターで飼育されている。
この仕事は“物流”
ここにいる保護猫は、すべて不妊・去勢手術が施され、ワクチン接種、ウイルスチェックなどがすんでいる。そのために、不妊・去勢手術専門の動物病院も運営しているという。
「私は、この仕事は“物流”だと思っているんです。鮮度を落とさず、感染症を出さずに消費者の前にきれいに並べる。そのためにやらなきゃいけないことは、まず病院だったのです」
保護猫たちの里親になるには、どうしたらいいのだろう。
「ホームページにある『里親さんの条件』を読んで、それに同意してもらえなければ里親にはなれません。同意しても断るケースもあるくらい面談は厳しいんです」
月に100件ほどの面談があるが、成約するのは約6割。4割は断るか、里親希望者の側が辞退するのだという。
「室内飼育・終生飼育が大前提。なのに、外で飼うつもりの方がけっこう多いんです。“家の中だけなんてかわいそうじゃないか!”って言われることも多い。でも、外に出したら遺棄したことになってしまうし、迷子になればノラ猫です。地域猫とケンカもするでしょうから危険極まりない。こちらとしては丁重にお断りするしかないのです」
面談を通過すると、いよいよ猫たちとお見合い。通常は、保護猫カフェの中から選ぶのだが、ホームセンターなどに出向いた車に積んだ猫たちの中から気に入った猫を選ぶ移動譲渡会も開催されている。
現在、注目を集めているのが『猫付きマンション』『猫付きシェアハウス』の事業だ。
「マンションの対応物件は現在、80戸くらい。各部屋に1頭ずつ成猫がいます。単身者の入居が多いですね。シェアハウスは、多頭飼育崩壊などで行き場をなくした成猫の受け皿として始めました。入居待ちが出るほど希望者が集まっています。だから大家さんはホクホクなんですが、ポンポン増やせないんですよ。立地の悪い所は絶対、埋まらないので」
今後は、不動産業も手がけると山本さんは言う。
「宅建を取得したスタッフも採用して、具体的に進み始めています。私は、この仕事をソーシャルビジネス(ビジネスを通じて社会問題の解決を目指す事業)だと思っています。怖さもありますよ。常時300頭以上の保護猫を飼育・管理しているわけですから。
私が倒れてしまったら、歴史に残る多頭飼育崩壊になってしまう(笑)。別に“いいこと”をしているという意識はありません。必要とされているのに、これまで事業化されなかったことに、仕事として取り組んでいるのです」