ドイツでもグリーン電力の夢は頓挫していた 送電網の整備が遅れロシアの天然ガス頼みに
しかし高邁なビジョンは、厳しい現実に突き当たった。世界屈指の工業国ドイツが脱化石燃料・脱原発に舵を切るのは容易ではなく、当初の予想以上にコストがかかり、政治的にも困難を極めた。結局、政府はエネルギー政策を見直して化石燃料への依存度を高め、気候変動対策で世界をリードする役目もある程度返上せざるを得なくなった。
問題は送電網にある。太陽光・風力発電を主役にすると、従来よりも複雑でコストも高い送電網が必要になる。ドイツが目標を達成するには、「送電網の全面的な再整備が必要だ」と、再生可能エネルギー推進政策に詳しいアナリストのアルネ・ユングヨハンは言う。
風力発電ブームがもたらしたのは、供給と需要のミスマッチという予期しない問題だった。ドイツでは風力発電所は常に強い風が吹く北部に集中しているが、大規模な工場の多くは南部にある(南部に集中する原発は次々と運転を停止している)。
北部の風力発電所から南部の工業地帯に電力を送るのは容易ではない。風が強い日には、風力発電所は大量の発電が可能になるが、電力はためておくことができない。供給過剰になれば送電線に過大な負荷がかかるため、電力系統の運用者は需給バランスを維持しようと風力発電所に送電線への接続を切断するよう要請する。こうなるとツアー客が眺めた巨大なブレードも無用の長物と化す。
一方で、電力の安定供給のためには莫大なコストをかけてバックアップ電源を稼動させなければならない。ドイツでは昨年、こうした「再給電」コストが14億ユーロにも達した。
解決策は、北部の風力発電施設から南部の工場にスムーズに電力を送れるよう送電網を拡張すること。そのための工事は既に始まっている。巨額の予算をかけて(事業費は電気料金に上乗せされて、消費者が負担する)、総延長約8000キロ近い送電線が新たに敷設される予定だが、今のところ工事が完了したのは2割足らずだ。
風力発電で大量の失業者
「壊滅的に工期が遅れている」と、ペーター・アルトマイヤー経済・エネルギー相は8月に経済紙ハンデルスブラットに語った。遅れた理由の1つは住民運動だ。4本の高圧電線が通る地域の住民は電磁波の影響を懸念し、地下にケーブルを埋設するよう要求。そのために工期は延び、コストは膨らんだ。
今の見通しでは工事が全て完了するのは25年。原発が全て運転を停止してから3年後だ。
こうした状況下で、ドイツは再生可能エネルギーへの転換のペースを見直さざるを得なくなった。与党キリスト教民主同盟(CDU)の広報担当ヨアヒム・ファイファーは本誌の取材にメールで応じ、「再生可能エネルギーの発電量を増やすことに注力し過ぎていた」と認めた。「発電量を増やすと同時に送電網を拡張する必要があるのに、後者が後回しになった」
再生可能エネルギー推進派は政策の後退に強く反発している。ドイツ風力発電連合のウォルフラム・アクセレムCEOによると、風力発電業界では大量の失業者が出ている。「19、20年にこの業界は苦境に陥るだろう」