山口県の老舗旅館が保護猫活動を始めた理由 猫の命をつなぐ、てしま旅館に賛同が集まる

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吉村さんの妻が猫好きで、てしま旅館に宿泊したことがあったのだという。そんな縁から手島さん自身も何度も本社に通い、ユニクロとしても異例のコラボが実現した。

「こんな夢のようなことがあるのかと自分でも驚きましたが、まじめにやっていれば、応援してくれる人が現れる……殺処分の問題を多くの人に知ってもらうきっかけになり、うれしく思っています」と手島さん。今、ほかの企業とコラボする話もいくつか進んでいるという。

山口県の猫殺処分ゼロを掲げ、クラウドファンディングにより2016年6月に誕生した猫庭。同県(下関市を除く)の保健所で殺処分された猫は、2014年度の2701匹から2017年度には542匹に激減した。譲渡数が40匹から1489匹に増えたためで、猫庭もその一端を担っている。

てしま旅館3代目の手島英樹さん。「寄付に頼るのではなく、持続可能な支援モデルを作っていきたい」(写真:てしま旅館提供) 

「殺処分を少しでも減らすために、全国で行政や団体や個人が懸命に活動しています。山口県では譲渡数が飛躍的に増えたけれど、保健所に持ち込まれる猫の数は依然として多いまま。問題の本質はそこにあるのでしょう。そもそも無責任に猫を飼う人がいなくなるように、人びとに訴えて意識や行動を変えていく必要がある。

とてつもなく大きくてやりがいのあるテーマだと思います。応援してくださる方が増えてきた今、私たちは信用を積み上げつつ、さらにできることを模索していきたい」と手島さんは決意を新たにしている。

獣医さんになりたいという目標ができた

平日の夕方、次女の姫萌ちゃんが小学校から帰宅した。制服から猫庭Tシャツに着替えたら、さっそく猫庭で猫一匹一匹の様子を見たり掃除をしたりと、テキパキと動いている。

猫たちの世話をする小学5年生の姫萌ちゃん。猫は人を警戒することもなく、のんびりくつろいでいた(筆者撮影)

猫庭では彼女を中心として、受け入れた猫の特徴や性格、健康状態を把握して、世話と譲渡を続けているのだ。

「初めは私たちが猫を飼いたいって言ったのに、なんだかお父さんのほうがのめり込んじゃって……」と明るく笑う姫萌ちゃん。

「私は何でも3日坊主で続けられない性格なんですけど、猫ちゃんのお世話だけは楽しくて大好きで自分からやっています」とハキハキ話す。習い事や塾に通いつつ、姉・兄とともに猫の面倒をみることが生活の一部になっている。夕方5~6時に猫庭でお客さんと話をするのも彼女の役目。

「いろいろな人とおしゃべりするのがとても楽しい」という。「ずっとお世話していた猫ちゃんが新しい家族のもとにいくときは、とてもうれしいけど寂しくて……幸せになってねって祈っています」。

元気な猫はもちろんケガや病気の猫もたくさん受け入れ、ときには看取ることもある。姫萌ちゃんには「将来は獣医さんになりたい」という目標ができた。

猫の命をつなぐために……手島家の挑戦はこれからも続いていく。

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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