自動車、小売り、建設…注目7業界の業績展望 「会社四季報」秋号の全産業営業利益予想は?

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食品業界では、大手間で製造・物流体制の効率化を追求することで、利益を確保しようとする動きが広がる。今期の営業利益増減率予想は前期比3.6%増、来期は5.0%増だ。筆頭格は国内即席麺最大手の日清食品だ。今年8月には滋賀県で、22年ぶりとなる即席麺の新工場を設置した。建設の背景には、増産よりも高騰を続ける労務費や物流費への対応が大きい。製造工程の省人化や包材工場の併設など、徹底した生産合理化を追求する。

一方で、味の素やキューピー、アサヒ飲料なども工場や物流施設の再編に動いている。食品メーカーの多くは1990年以降、設備投資を絞って利益を捻出してきた背景がある。その反動で現在の工場設備が老朽化し、かつ労務費もかさんできた。さらに、製造・物流拠点の配置という面でも効率化の余地があるためだ。ただ、各社ともに多額な投資を行うため、それに見合った収益性を向上できるかが、今後のカギとなる。

物流(倉庫・運輸関連)業界は、国内景気の好調さを背景に荷動きは活況だ。今期の営業利益増減率予想は前期比5.3%増、来期は同4.7%増。人手不足や燃料費上昇による運賃の値上げを実施したが、これが浸透。収益は改善傾向にある。宅配業界最大手のヤマト運輸では、配便1個当たりの平均単価はこの1年で2割近く上昇。同社は2019年度から荷物料を増やす計画だ。

運賃の値上げは物流大手から中堅に広がる。荷主の多くは値上げに理解を示すが、商品やサービスの価格に転嫁できているわけではない。今後はさらなる値上げ要請に応じられない荷主も出てくるだろう。物流企業は値上げによる収益の増分を社員の待遇改善に充てる。加えて、今こそ業務改革による生産性の引き上げが求められている。

自動車の営業利益は今期いったん縮む見通しだが…

自動車(輸送用機器)業界の今期の営業利益増減率予想は前期比1.2%減、来期は同4.8%増だ。足元ではグローバルでの販売台数がアジアを中心として緩やかに伸びる傾向にあるが、北米市場のピークアウトやアメリカのトランプ政権による貿易摩擦など、不安要素も抱えている。

トヨタ自動車の足元は堅調で、アジアや欧州での自動車販売が好調なほか、原価改善なども進んで原料高を吸収している。中国という世界最大市場での販売も好調だ。ただし、中国に次ぐ市場であり、日系各社にとって稼ぎ頭であるアメリカは、ここでの依存度が高い会社ほど厳しさを増す。新車市場は頭打ちで、日系が得意なセダンや小型車から大型車に消費志向がシフトしているためだ。

日産自動車やSUBARUは、アメリカでの販売奨励金(インセンティブ)の見直しや増加で利益が侵食されそうだ。また、トランプ政権が日本からの輸入車へ関税をかける動きも心配材料。トヨタの場合、日本からの自社輸出車1台当たりで平均6000ドル、全体で約4700億円の追加負担になると見込んでいる。

バブル期の利益水準を超えて、成長を続けているのが建設業界。2017年度は過去最高益更新が相次いだ。今期の営業利益増減率予想は前期比6.8%増、来期は同4.9%増と高水準ながら頭打ち感もある。

ゼネコン各社の好業績をこれまで支えてきたのは、もっぱら利益率の改善だった。2000年代は売上総利益率1ケタが当たり前だったが、震災復興需要や景気浮揚を追い風に利益率は急回復。たとえば、2017年度で鹿島は約14%、大成建設が約16%を記録した。

しかし2018年度に入ると、利益率の伸びに限界が見え始めた。2018年3月期第1四半期決算では、スーパーゼネコン4社をはじめ準大手、中堅ゼネコンの多くが減益となった。今後は人手不足や働き方改革に伴う人事面でのコストも頭をもたげてくる。業績自体は過去最高水準だが、これを今後どこまで保てるかが各社の勝負の決めどころとなる。とはいえ、業界からは「復興工事や東京五輪需要は一服しつつある。今後は市街地やインフラの大規模再開発がある。2024年までは大丈夫」という強気の声も聞こえてくる。

不動産も、デベロッパー各社の業績はどこも最高益圏で推移している。業界全体の今期営業利益増減率予想は7.0%増、来期は7.1%増だ。全体として業績は好調といえよう。

賃貸ビルの空室率は低く、オフィスビルが大量に竣工する2018年に賃貸需給がだぶつくのではと心配された「2018年問題」も起きていない。都心の再開発プロジェクトは2020年以降も目白押しで、首都圏のマンション価格もうなぎ登り。大手各社の業績を潤している。

『週刊東洋経済』10月20日号(10月15日発売)の特集は「絶好調企業の秘密」です。
福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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