診断から治療まで、最先端「医療AI」の潜在力 膨大なデータを活かし最適な治療をサポート
この研究で集まったデータをもとにインフルエンザ濾胞を画像で判定するAIを組み込んだ診断装置を開発する。装置といっても、内視鏡型のカメラを組み込んだ円筒形の撮影機器をスマートフォンのような処理装置に送るだけ。医療機器として承認を取り、全国のクリニックに置いて全国どこでもベテランの「匠の技」と同等のインフルエンザ診断を受けられるようにしたいという。2019年に承認申請、2020年には承認を得て実用化する方針だ。
インフルエンザのような感染力の強い疾患の患者が知らずに外を出歩くことによる感染の拡大が防げるのは社会的にも大きなメリットだ。インフルエンザの次にも「匠の技の共有」をディープラーニングによって可能にしていく。とくに「一般医師が判断に悩むような病気がターゲットになる」(沖山氏)という。
「医療の暗黙知」を取り込む
AIを治療に生かす動きもある。MICIN(マイシン、旧・情報医療)が取り組むがん内視鏡手術の動画解析だ。MICINはオンライン診療システム「curon」(2016年~)を提供するベンチャーだが、もうひとつ力を入れる事業がある。AIを使って医療データを解析・活用するソリューション事業だ。創業者で医師でもある原聖吾CEOは、「社会的な視点で何かをしたいと考えたときに、今はテクノロジーが身近にあり、適切な専門家が数人集まれば社会実装可能なものができる」と語る。
今取り組んでいるのは消化器外科の内視鏡手術への応用だ。AIに上手な手術の動画を大量に学習させて、手術での再現を目指す。がんなどの重篤な疾患の手術には、癒着してしまった臓器からがん細胞をきれいにはく離しがん細胞を残さない方法、そのために邪魔な血管や臓器をうまく避ける方法など、細かなノウハウが膨大にある。
こういった“うまい手術”は傷や痛みが小さく合併症の発生も少なくなり、再発リスクも抑えられる。治療の質の差となって現れるのだ。意欲のある若手医師は競って上手なベテラン医師につき、手術を見て、実際に自分でもやってみて習得していく。特に日本の内視鏡手術は世界トップクラスとの評価が高い。
だが、この方法には限界がある。優れた外科医に直接ついて学べる若手の数は限られ、その中に入れないと手技を見ることすらできない。「医療の暗黙知を形のある知識として蓄積し、広く使ってもらうことで医療の質の格差をなくしたい」と原氏は言う。
手術1件の所要時間は長いと7時間、画像データ量は数十万枚にのぼる。これをAIに学習させる。良いモデルをデータ処理し、手術中に次に何をするかを予測してナビゲーションする仕組みを作る。完成すれば、全国どこの病院でも高度なベテランの手技を生かした手術を受けられるようになり、患者がよい治療を求めて病院を渡り歩く「ドクターショッピング」をせずにすむ。
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