《戦略講座》アップルのiPodを「ブルー・オーシャン戦略」で解説する

 ブルー・オーシャン市場を探すために、まず既存の市場について戦略キャンパスを作成する。市場で競合各社が何に投資しているか、製品、サービス、配送などの何を強みにしているのかを横軸に取り、顧客にとっての各要因の価値の高さを縦軸に示す「価値曲線」を作るのだ。これを携帯デジタル音楽プレイヤーで説明すると例えば以下のような図ができる。

 ここで着眼すべきは、当該の市場がレッド・オーシャンであるとすると、競合各社、自社ともに多少の差異はあれど、基本的には酷似した価値曲線を描くということだ。競争の激化したレッド・オーシャンでは、競合の提供する製品・サービスに対して遅れを取ることがないように目を光らせ合うため、次第に非常に似通った価値を提供するようになる。

 一方、ブルー・オーシャンでは、これらと異なる価値曲線を目指すことが重要となる。この際、全く新しい技術などによって、これまでにない市場の創造を目指すのではなく、既存市場を決定づける要因を問い直し、市場を再定義するのがブルー・オーシャン戦略の大きな特色の一つである。

 具体的には、「4つのアクション」によって、(売り手が重要と考えているが)買い手が不要と考える要因を除き、他方で既存市場では提供されていなかった新たな価値を追加する。「Eliminate−業界常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か」、「Reduce−業界標準と比べて思いきり減らすべき要素は何か」、「Raise−業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か」、「Create−業界でこれまでに提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か」という検討を経て、低価格化と差別化の双方を満たす「戦略キャンパス」を再構築していくのである。

■ハードの開発よりも権利関係の問題解決を勝機に

 図1、図2ともに、正確な事実に基づかない点もあるが、iPod開発当時の状況を推察しながら筆者が独自に作成してみた。

 まず当初のアップルは、ソニーなどに比べて技術優位はないと考えた。また、大量生産を担保できていない状態では、精密機械の製造技術も高くはないと判断した。ブランド力も、長く携帯音楽プレイヤーを販売してきたソニーらと比べると見劣りする。

 しかし一方で、「ナップスター」など、インターネット上の配信サービスを利用して音楽を無料で楽しむパソコンユーザーが台頭してきた米国では、手持ちの音楽CDから楽曲を携帯プレイヤーに移し変えるよりも、好きなときに好きな曲だけをダウンロードして聴くことが当たり前となりつつあった。ユーザーは、新曲を誰よりも速く手に入れたい。しかも簡単に。無数にある音楽から好きなものを探し出すためには検索性も重要だ。

 インターネットを介した音楽配信サービスは、ソニーも1999年12月に先鞭をつけている。しかし、自らも音楽レーベルを運営するソニーは、コピー防止にこだわった。加えて、「ATRAC」と呼ぶ独自の圧縮技術に固執した結果として、多くの楽曲を集めることができなかった。他方、自社レーベルというしがらみのないアップルは、各社から音楽・動画といったソフトを集積してくることができた。また、多くのミュージシャンやデザイナーが愛用するパソコンを提供してきた背景から、最初から一定数の音楽のヘビーユーザーを顧客として抱えている強みもあった。

 アップルが、こうした「戦略キャンパス」を描いてiPodの戦略を検討したかは無論、定かではないが、市場環境や自社の強みについて検討する過程で、プレイヤーの性能競争やマーケティング競争に正面から参入するのではなく、コンテンツ(楽曲)の権利関係に関わる問題解決こそが自らの強みを引き出すことに気づいていったのではないかと筆者は推測している。

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