平岩アナがeスポーツ専門アナに転じたワケ eスポーツ実況に特化した事務所を設立

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――野球やサッカーの実況を担当し、とりわけプロ野球の阪神戦の実況は定評がありましたが、eスポーツの実況は、それらのスポーツ実況との違いはあるのでしょうか。

平岩:スポーツ実況においてのスキームがeスポーツ実況でも当てはまると思います。私自身としては、ゲームの進行などを実況することも大事ですが選手の表情にも注目しています。ポーカーフェイスの選手もいますが、ゲーム中の行動や結果が表情に表れます。なので、ゲームよりも選手にフォーカスしていきたいですね。あと、選手のバックボーンなど、人となりを知ってもらうのも重要だと思っています。

実況の話ではないですが、eスポーツは、ほかのスポーツと違って、プロプレーヤーとアマチュアが同じ条件でできるという点があります。たとえば対戦格闘ゲームの『ストリートファイターV』であれば、トッププロプレーヤーのときど選手の波動拳と私の波動拳は一緒なわけです。老若男女の差がないスポーツということなんです。

――野球の場合、投げて打つというのはプロもアマも変わらないですが、大谷選手の160キロの球はアマチュアには投げられないですし、打ち返すこともできないということですね。ときど選手の波動拳が2倍の速度で2倍の威力ではないと。

平岩:そうです。なので実況を聞いている人も、ほかのスポーツとは共感の仕方が違うんですね。唯一近いのはゴルフかもしれません。あとは、eスポーツというか、ゲームタイトルは必ずアップデートがありますよね。なので、知識もその都度、アップデートしていかないと実況にはならないわけです。アナウンサーにとって重要である声量とか滑舌以外にも重要なこと、やることがたくさんあるわけです。

今後の目標は?

――新しく開いた事務所では、eスポーツの実況や大会の運営などのほかに、eスポーツ実況アナウンサーの育成も行うということですが、どのような後進を育てていきたいと思っていますでしょうか。また、今後の展開も教えていただけますでしょうか。

平岩:後進の育成に関しては、「ゲーム好きのアナウンサー」と「しゃべれるゲーマー」の2つのラインを目指していきたいと思っています。どちらもよいeスポーツキャスターになると踏んでいるからです。もちろん、クオリティは段違いのものを目指しており、プロとして活躍ができる人材を育てていく予定です。

今後の予定というか目標としては、もっとライトユーザーを取り込んでいきたいですね。現在、サッカーのワールドカップが開催されていますが、普段はサッカーを見ない人の中にも、ワールドカップだと見たり騒いだりする人が出てきて、みんな楽しんでいますよね。ああいった感じでいい意味でミーハーな人の心をつかんでいきたいのです。

あとは、海外のeスポーツイベントを見ていると、観客の熱狂度が違いますよね。女の子が声をからして応援していたり。ゲーマーって、おとなしい印象を持たれている人も多いと思いますが、ゲーム系のイベントでは結構はっちゃけたりしていて、アクティブだったりします。そのアクティブさをeスポーツイベントで発揮してもらいたいですね。

※ ※ ※

これまでのeスポーツ実況でも、長年の経験と知識によって、すばらしい実況を行う方々は多々いました。しかしながら、テレビ局のアナウンサーという、誰もが認めるプロがeスポーツの世界に入ることで、彼らが到達しえなかったさらに一段階上のステージに進めると確信しました。

平岩アナウンサーは、プロのアナウンサーがeスポーツの世界に入ることで、これまでeスポーツの実況をしていた人たちの職を奪うことは考えていないとも言っていました。どちらかというと、プロがさらに門戸を広げることにより、彼らの活躍の場も増えて行くのではないでしょうか。ある意味、みんなが素人であるような状態で始まったテレビゲームのプロ化は、その道のプロの参戦によって、本格的にプロとしての位置づけを得ていくのでしょう。

岡安 学 デジタルライター

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おかやす まなぶ / Manabu Okayasu

eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。さまざまなゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、ウェブや雑誌、ムックなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)。@digiyas

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