不登校から人気バンドマンになった男の人生 4年半の引きこもりからデビュー、現在まで
記憶がない
約束をした原宿のファミレスに現れたのは、華やかな雰囲気ながら、とてもまじめで気さくな青年でした。田村さんにもじつは、かつて学校に通えない時期があったと言います。
「小5の途中から中学卒業までの約4年半、まるっと家にいました。祖父が開業医で、小さいときから『医者になれ、勉強しろ』と言われてきたプレッシャーと、当時は太っていて学校でいじめられたのが原因です。親の理想を押しつけられて応えられず、限界が来てプチっと糸が切れた。典型的なパターンですね」
家にこもっていた当時の記憶は、あまりありません。つらかったのでしょう。覚えているのは「ひたすらゲームをしていた」ということのみ。
「でも途中から、親が変わってきたんです。母が不登校の子を持つ親が集まる「親の会」へ行くようになり、僕に歩み寄ろうとしてくれて、厳しかった父も優しくなってきた。そうしたら自分のやっていることに罪悪感が出てきたんです。それまでは、自分がこうなったのは親のせい、先生のせいだとまわりに当たり散らしていたけれど、どこかで虚しくなってきた。学校に行きたくても行けない自分が情けなくて、すごく悩みました」。
親の変化を受け、「自分も変わりたい」と思い始めたものの、どうすればいいかわからず苦しむ日々。しかし、ヒントは思わぬところからもたらされました。
「あるとき夜中にテレビを見ていたら、ヴィジュアル系バンドの番組をやっていたんです。それにすっかり引きこまれてしまって。キラキラした世界を見て『いいなぁ、自分もああなりたい』と強く思ったんです」
自分もあんな人になろう。そう決めた田村さんは「自分のことを誰も知らない高校に行く」と決め、単位制の高校に進学しました。
「通学に片道1時間くらいかかったんですが、最初のころは電車に乗ると吐いてしまって(苦笑)。4年間ずっと家にいて、急に外に出たので。だからしばらくは早起きして、逆方向に乗って始発駅から引き返したりして、ちょっとずつ慣らしていきました」
高校に入ったころは、中学に行っていないことやいじめられた過去を「恥ずかしい」と感じていたため、周囲にはその経歴を偽っていたこともあったそうです。