ヤマト、下請け運転手は「制服着用なし」の謎 湾岸のタワマンから苦情続出、運転手も困惑

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ヤマト運輸は配送ネットワークの立て直しを急いでいるが、当面は協力会社を活用せざるをえない(撮影:梅谷秀司)

「宅配危機」という言葉で注目されたように、ヤマトはECによる荷物の急増で2016年度後半に入って配達現場がパンク。協力会社による外部戦力の活用も拡大させたが、社員のサービス残業が常態化して、労働基準監督署から指導も受けた。2017年度からは大口荷主向けの運賃値上げと宅配便荷受量の抑制を同時に進め、2018年度中の配送ネットワーク立て直しを目指している。

ヤマト運輸を中核とするヤマトホールディングス(HD)のデリバリー部門では2018年度、社員を過去最大規模の約15000人(8%)増やす計画だ。午後から夜間にかけての配達に特化した新しいドライバー制度「アンカーキャスト」も創設し、2019年度末(2020年3月末)までに1万人規模の採用を狙う。

とはいえ、物流業界が空前の人手不足の中、ドライバー確保のハードルは高い。荷物量が多い首都圏を中心に、当面は協力会社の委託ドライバー頼みの状況が続く。ヤマトHDのグループ会社関係者は「協力会社への配達委託が増える中、品質問題が多発しており、ブランドを気にするヤマトとしては『協力会社がヤマトである』というイメージを切り離すために、今回の措置に至ったようだ」と話す。

先述した東京湾岸エリアを担当する委託ドライバーは「ヤマトの社員ドライバーは相当な教育を受けているが、ある意味、委託ドライバーには誰でもなれる。昨日から宅配を始めたような人もいて、資質にはバラツキがあるので、配達先からクレームが出るリスクが高い」と指摘する。

協力会社に対するマネジメントは十分か

しかし、ヤマトの配達現場が「制服着用の有無」をもってクレーム対策としているのだとしたら理解に苦しむ。制服を着ていない委託ドライバーが配達中に問題を起こした場合に、問題の性質によっては、ヤマト側が責任を100%回避することは難しい。問われているのは、ヤマトの協力会社に対するマネジメント能力だ。「ヤマト」の看板で顧客と直接接する以上、ヤマトは協力会社のドライバーに対しても相応の教育を行い、クレームにも委託元として誠意を持って対応するのがスジだろう。

宅配最大手の委託ドライバーが、IDを着けるにせよ、「制服着用なし」で配ることが一部地域で可能になることは、セキュリティに対し関心が高まる社会の趨勢に逆行しているともいえる。その事実が社会に広く知れ渡ると、悪意を持った人による「ヤマト運輸」をかたった犯罪も起きかねない。

今回取材に応じた協力会社のドライバーはいずれも長期間同じエリアで配達し、顧客から信用や信頼を得ていた。いまや「ヤマトブランド」を支えているのは社員だけではないのだ。中元シーズンや年末の繁忙期には新人の委託ドライバーも増えるうえ、宅配便を普段使っていない人も使うため、「制服着用なし」に対するクレームが増える可能性もある。冒頭の委託ドライバーは、「制服貸与の取り止めはヤマトブランドを守ることにつながらず、ブランドを崩しかねない」と強い口調で今回の措置に疑問を呈する。

ヤマトHDの山内雅喜社長は、「社会的インフラとなった宅配便を維持、成長させていくのが会社の使命だ」と強調する。その考えに基づけば、今回の制服貸与取り止めは正しい判断だったのだろうか。ヤマトには、社会の声に真摯に耳を傾ける姿勢が求められている。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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