大混雑の「江ノ電」は社会実験で快適になるか 観光客が多すぎ、乗れない地元住民から不満

拡大
縮小
鎌倉駅前で市職員が長谷駅まで徒歩用の地図を配る(筆者撮影)

ピーク時の混雑緩和にも、まだまだ策があることも実感した。鎌倉駅頭では、市観光課の職員が鎌倉駅から長谷駅付近までの観光マップを配っていた。長谷駅は大仏様(高徳院)や長谷寺、由比ヶ浜の最寄り駅なので、観光客の乗降が多い。鎌倉駅から長谷駅まで歩いても25分ほど。地図にはそのルートが詳しくかかれている。江ノ電に乗るのに30分以上待つのなら、長谷駅まで歩いてしまった方が早い。観光課職員も地図を配りながら徒歩を勧めている。改札前でも警備員が長谷駅までの道筋を案内している。

長谷駅前も大混雑(筆者撮影)

実際に鎌倉駅から長谷駅まで歩いてみた。想像以上に多くの人が歩く選択をしたようで、所々列をなすようにして歩行者が続く。中間地点付近にあるローソンの前で通行人数を数えてみた。見た目ではほとんどの人が観光客である。

江ノ電は12分おきに走っている。ここで鎌倉駅方向から長谷駅方向へと歩いている人を数えてみたら、4日14時からの12分間で350人だった。江ノ電車両の定員は72人。4両編成の定員は288人だが、実際この時は大混雑400人以上が乗車している。超混雑の江ノ電の乗客とほぼ同じ数の人たちが江ノ電に乗らずに歩いている。鎌倉駅頭での案内の効果は大きいといえる。何年か前のように1時間待ちにならなかったのは、このおかげかもしれない。

混雑緩和の方策は、江ノ電の区間別乗車率にも潜んでいる。始終点駅の鎌倉、藤沢を除いた途中駅で断トツに乗降客が多いのが長谷駅の1万1329人である。長谷駅は鎌倉駅から3つ目。ということは、鎌倉―長谷間の乗車客が最も多いと思われる。これは何度も江ノ電に乗っての実感とも一致する。

徒歩で観光をするプランも悪くない

鎌倉に来たら一度は江ノ電に乗るべきだ。そうお勧めもしたい。

だがゴールデンウィークなどの混雑時は鎌倉―長谷間はあえて徒歩で観光し大仏様を拝観した後、長谷駅から江ノ電に乗って海を間近に見る鎌倉高校前駅付近や道路上を走る腰越付近の車窓を堪能する。こうしたプランもいいと思う。

大仏様からの帰り道、まっすぐ行けば長谷駅、左に曲がれば鎌倉駅といった交差点に、長谷駅での乗車待ち40分などの案内板があれば、かなりの数の人が鎌倉駅まで歩くことを選択するとも思う。上記は一例だが、対策として、的確なポイントで乗車待ち時間案内を行う、鎌倉駅―長谷間の道(由比ヶ浜通り)は洒落た店も点在し、歩くと気持ちがいいことをさらに強くアピールするといったことの効果が大きいと思われる。

今回の社会実験の目的である市民の優先乗車とともに、ピーク時の混雑の緩和策を徹底させることも重要な施策だろう。それは観光客、市民ともに恩恵が大きいことを指摘しておきたい。

内田 宗治 フリーライター、地形散歩ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

うちだ むねはる / Muneharu Uchida

主な著書に、『地形と歴史で読み解く 鉄道と街道の深い関係 東京周辺』(実業之日本社)、『外国人が見た日本 「誤解」と「再発見」の観光150年史』(中公新書)、『関東大震災と鉄道』(新潮社)など多数。外国人の日本旅行、地震・津波・洪水と鉄道防災のジャンルでも活動中。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT