小田急ロマンスカー「ふじさん」は定着するか 伝統の「あさぎり」を名称変更、訪日客にPR

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名前を改め、新たなスタートを切った特急「ふじさん」。だが、「あさぎり」時代のデータを見ると、利用者数は決して多いとはいえない。

御殿場市の統計書に記載された「小田急ロマンスカー『あさぎり号』の利用状況」によると、新宿―御殿場間の全利用人員は2015年度で約57万人。1日あたり約1560人が利用している計算になる。これだと少なくないように見えるが、御殿場線内までの利用人員となると大幅に減り、同年度で約17万3600人。1日あたりの利用者は475人となり、平日ダイヤの1日3往復として計算すれば、列車1本あたりの乗客数は79人だ。

同列車に使われるロマンスカーMSEの座席数は6両で352席のため、乗車率は20%ちょっと。新宿―沼津間から新宿―御殿場間に運転区間を短縮した2012年度以降、御殿場線内までの利用人員は毎年17万人台で推移しており、小田急線内のみの利用は一定数あるものの、本来の目的ともいえる御殿場線直通利用者は少ない状態が続いていることになる。

バスは便利だが列車にも期待感

新宿方面とを結ぶ公共交通機関として圧倒的に利用者数が多いのは、小田急グループの「小田急箱根高速バス」だ。御殿場市統計書によると、2015年度の利用人員は上り(新宿方面行き)が約34万9000人、下りが36万700人で、「あさぎり」の利用人員を大幅に上回る。本数も1日に片道30本以上あり、利便性では高速バスが優位に立っているといえる。

富士急行の「フジサン特急」。実は元小田急ロマンスカー「あさぎり」の車両だ(記者撮影)

とはいえ、やはり新宿直通の特急列車への期待は強い。「山梨県側には富士急行線の『フジサン特急』など富士山をイメージさせる交通機関があるが、こちらにはそういったものがなかった。『ふじさん』という列車の存在は、御殿場=富士山というイメージを持ってもらう上で大きい」(観光協会担当者)。小田急も「高速バスと列車は補完しあう関係。グループでさまざまなアクセス手段を提供したい」と話す。

富士山周辺への観光ルートとしては、これまであまり認識されているとは言い難かった御殿場線直通の特急ロマンスカー。富士山にちなんだネーミングの列車は、富士急行の「フジサン特急」や「富士山ビュー特急」、JR中央線から富士急行線に乗り入れて新宿と河口湖を結ぶ「ホリデー快速富士山」と複数存在しており、どのように存在感を示していくかも今後の課題だ。伝統ある「あさぎり」の名を改めての新たなスタートが、御殿場線沿線の観光、そして列車自体の活性化につながるかが注目される。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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